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事件の始まりは静かなものだった。




「…っ、」




1階席に座る一人の男子生徒が、苦しげな声を漏らした。ランチを囲み、それぞれ話に夢中になっている中で、その声を聞き取れた人物がどれほどいただろうか。




料理の様子を見てくると言って、降りた一階。どうして彼に目が行ったのかなんて、わからない。これが小説の効果だと言われれば、それで納得してしまう。それくらい、彼だけが少し周囲の雰囲気から浮いていたのは確かだった。




男子生徒の顔は青く、唇は紫色になりかすかに震えていた。



人でごった返しているホールを進み、彼のそばへと向かう。と、ガシャンと音を立て、彼は目の前のカレーライスに顔面を突っ込んだ。



いや、そんな描写あったっけ!?



突然、プツリと電池が切れたかのように身体の力が抜け、目の前に倒れ込んだ男子生徒に、周囲の生徒が声をかける。



が、反応はない。

当然だろう。盛られている毒は強烈だ。



騒つく周囲をすり抜けて、彼のそばによる。



「おい、触るな」



見事、カレー皿から彼を救出した一人の生徒が、私にそう声をかけた。こんな時に考えることではないが、カレーのスパイシーな匂いが逼迫している空気をぶち壊す。




『私は、爵位のある家のメイドです。お任せください』


「いや、でも、」



まだ何か言っている男を無視して、さりげなくカレーまみれになっている生徒の口へ、手の中に忍ばせておいた根を押し込んだ。



「うっ、ぐ…、」



少し、間抜けな声がして、カッと見開かれる目。毒を仕込まれたというのに、まだ意識があるとは。少し驚きながらも、彼を食堂の椅子に横たわらせる。



「お前ッ、なにを」



私が彼に何かを飲ませたのを隣にいた男は見ていたらしい。慌てて飲ませたものを取り出そうとしたけれど、もう根は飲み込まれたようだった。




『…医者を呼んで参ります』


「あ、おい…!!」




根さえ、飲んでしまえばもう安心だ。あの毒は根を飲めばすぐに解毒される。私がするりと人混みの中に紛れ込むのを男はただ見ているだけで、追いかけてこようとはしなかった。



カレーまみれの生徒の友だちなんだろうか。倒れた友を置いて行くわけにも行かないんだろう。もちろん、私がその場に戻ることはなかった。




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