896話 精霊を解放させる⑪
光が消えると、そこにいるのは人型――黒髪のロングで黒色の羽を羽ばたかせた黒一色のドレスを着た女型の精霊になった。
少しソシアさんに似ているのは気のせいか?
「フハハハハハハ! なんという妖艶な精霊の身体だ! 女になって良い実感がする!」
少しハスキーボイスの女の声で自分の姿を触ってわかったのか、笑いが止まらなかった。
姿はいいとして、かなり膨大な魔力を持っている。
リフィリアと引きを取らない量だ。
完全に面倒な相手だ。
それに……この甘ったるい匂いはなんだ……?
「ただ容姿が良くなっただけでボクたちに勝てるとでも? 君ね、精霊とはほど遠いよ? 鼻につくような激臭を出す精霊なんて聞いたことがない。これで攻撃になったつもり?」
エフィナは鼻を塞いで挑発する。
激臭? この甘ったるい匂いは苦手なのか?
「私は大精霊マルティスだ! フフフフフ……どうかな? さっそく獲物がつられてきた」
獲物? 振り向くとソウタがよだれを垂らしながら近づいてくる。
いつの間に来た……?
「メスの良い匂い……メス……。メスメスメス……」
はい? この状況で欲情してどうする……?
良い匂い……? もしかしてアイツが放っているのは男を魅了させるフェロモンなのか?
ほかの男たちを見ると――膝をついて必死に耐えていた。
それに……アルカナ、リフィリア、ルチル以外の女性たちも膝をついて咳き込んでいた。
例外として――。
「ソウタちゃん、勝手に離れちゃダメよ!?」
トリニッチさんは全然平気でソウタを追ってくる。
なるほど、男には良い匂いで女にはかなり激臭――毒かもしれない。
厄介な性能を持つな……。
ルーンフィールドは魔法と魔力持つ攻撃は無効化できるが、匂い系は無効化はできない。
「――――ウインドフィールド!」
リフィリアは魔法で風の領域を創って匂いを消し飛ばした。
みんなは落ち着いた様子だ。
対策できるならまだ安心できる。
だが、ソウタだけかなり効き目がある……?
考えるとしたらソウタを恨んでいるからなのか、かなりの特攻の可能性はある。
マズイな、【魅了】と同じならソウタは暴れ始める。
ただ、こっちに来たのはよかった。精霊のほうで暴れてしまえば、周りは混乱してしまうところだった。
「トリニッチさん、ソウタを取り押さえてください!」
「任せて〜! さぁソウタちゃん〜、私の抱擁でおとなしくしてね〜」
ソウタはトリニッチさんに任せて、あの自称大精霊――マルティスを倒して……。
「おっと、そうはさせない――」
「ソウタちゃん!?」
トリニッチさんがソウタに抱きつこうとしたときに、マルティスに割り込んできてソウタを捕まえて上空にいる。
速すぎだろ……。
「メスのいい匂い!」
しかもソウタはマルティスの胸に顔を突っ込んで抵抗をしない……。
面倒になったな……、ソウタが人質になっってしまった……。
うかつに攻撃できない……。
「ソウタ、コイツはさっきまで男だったぞ! 早く目を覚ませ!」
「グハハハハハ! 獲物は私を女でしか見ていない。諦めろ!」
「ソウタちゃん、この女より私の胸のほうが1番よ! 怒らないから戻ってきて!」
「イヤだ! このメスがいい!」
トリニッチさんが説得しても子どものように駄々をこねる。
完全に魅了されている……。
「グハハハハハ! そうだろ! 私が1番さ!」
「お前、ソウタを恨んでいるのに抱いて気分は悪くないのか?」
「気分が悪い? むしろ、最高の気分だ! グリュム様のおかげですべての価値観が変わった! 残念なことに、この獲物は洗脳者ではなかったことだ。正真正銘の精霊使いだとわかった。スール様に騙されたが、そんなことはどうでもいい。この獲物――ソウタを見ると胸の高まりが止まらない。早く味見をしたい……」
コイツ、グリュムの力でいろいろとわかってしまったか。
というか、ソウタをエサとしか見なくなったか……。
それもそうか。精霊と相性の良い魔力を持っているソウタはごちそうでしかない。
精霊になったマルティスはソウタの魔力がかなり好みなのかもしれない。
「ソウタをどうするつもりだ?」
「味見するに決まっている。私が味見するまで待っててくれ」
マルティスはソウタを抱えて逃げると――無数の大型の魔力反応が俺たちに囲んで向かってくる。
甘ったるい匂いから、甘酸っぱい匂いに変わった。
魔物を呼び寄せるフェロモンを出したのか?
最悪だ……、時間稼ぎされてすぐにソウタを追えない……。
怯んでるみんなを守るのを優先しないと――。




