88話 出発の日、大迷惑
――数日後。
今日からミツキさんたちとハチミツ探しに行く日になった。
アイシスとフランカは……。
「準備は万全です!」
「この日を待っていた……早く行こうぜ!」
気合い十分ですね……。
待ち合わせの商館前に向かう――。
ミツキさんたちは商館の前で待っていた。
「おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」
朝早くからミツキさんは軽装の鎧を着て――笑顔で元気いっぱいです。
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
「さあ、行きましょう!」
「すいませんが、ギルドに寄っていいですか? 行く前に挨拶するように言われているので」
「いいですよ! 挨拶は大事ですよね!」
「まだ挨拶していたのか、成人しているのにギルマスも心配性だなー」
「ザインさんは平気みたいですけど、スールさんが……ちょっと心配みたいですよ……」
「ああ、アイツか……それならわかる……」
ウィロウさんは頷いて納得はした。
「あの変態がまだレイに関わっているなんて……はぁ……大変ですわね……」
いえ、グラシアさん……最近スールさんとは会っていませんよ……。
ギルドに向かうと――ザインさん、リンナさん、スールさんが見えてきた。
精霊はスールさんが見えてきたのがわかると、すかさず【隠密】のスキルを使って姿を消した。
「来たな、気をつけて行けよ! ハチミツ楽しみにしているからな!」
「私もハチミツ楽しみにしてるわ! みんな怪我のないように気をつけてね!」
期待されていますね……高級品を探すとそうなるか……。
なぜかスールさんは険しい顔をしているがどうした?
「納得行きません! 私も行きます!」
…………はい? 急に何を言っているのだ……。
『うわぁ……面倒くさい……コイツほっといて早く行こう』
『私も反対……あの変態残念エルフに犯されそうで恐い……』
やっぱりエフィナと精霊は拒否しますよね。
「何言ってなさるの? わたくしたちに不満でもありますの?」
グラシアさんは呆れている……断固反対のようです。
「もちろんあります! 理由は3つありますよ!」
3つもあるのかよ!?
ザインさんとリンナさんはため息をついている……。
この様子だと説得しても聞かなかったらみたいだ……。
「理由?」
ミツキさんは首を傾げてる……長くなりそうですいません……。
「早く言ってください。時間がありませんわ」
「1つ目はまだフランカさんと挨拶もしていません! いろいろと話がしたいです!」
「いや……そんな余裕はないと思うが……それはあとにしてくれ……」
『コイツこんなにメンドイのか……アタイもアネキと精霊と同じで反対だな……』
心が広いフランカでもスールさんはダメみたいです……。
「このバカアニキ、フランカを困らせるじゃないよ! おしゃべりする暇なんてこれっぽっちもないわ!」
リンナさんもっと言ってください。
スールさんが来るとややこしくなりますので……。
「って……聞いているの!」
「聞いていません! まだ私が話している途中ですよ! 最後まで聞いてから言ってください!」
珍しくリンナさんに反抗的だな……。
そこまでついていきたいのか……。
「2つ目は最も重要です! 精霊さんが成長して話せると聞いています! これは一緒に親睦を深めないといけません! 今どこにいるのですか!?」
…………結局精霊目当てかよ!?
俺も反対だ!
精霊がまたストレスで魔力が削れる!
『しつこいな……それだから嫌われているのにわかっていないの?』
『マスター……絶対にいや……』
精霊は震えている感じだ……だったらお目当てがいなければ諦めるはず。
「精霊は旅をしていますのでいませんよ」
「そうよ! 精霊ちゃんは旅をしているって何度も言っているじゃない! 諦めなさい!」
あっ、リンナさんも精霊に近づかせないようにそう言って説得していたのか……ありがとうございます。
これなら諦め――。
「いいえ! そんなことはありません! 絶対近くにいるはずです! 私の目よ――精霊さんを探せ――――」
いや、もう諦めてくれ!?
いくら【魔力感知】が良くても【隠密】は破れないはず。
スールさんの目に魔力が集中して光始めた――。
『む、マズイな……精霊はレイの後ろに隠れて!』
『わかった!』
「見つけました! 精霊さんはさっきレイの後ろに隠れましたね! 球体が見えましたよ!」
「ひぃ!?」
わかるのかよ!? もう正直に言うか……。
「あの……精霊はスールさんが嫌いですので今回……いえ、一生諦めてください……」
『いいぞ、もっと言え!』
『マスター……ありがとう……』
もうこれくらい言わないと精霊が危ない気がしてきた……さすがにこれで――。
「それはレイの間違っています! 精霊さんは私が好きで恥ずかしいだけです! 私だけに見えるってことは――そう、愛の力です! これは精霊さんが私を認めたと同然です!」
明らかにおかしいだろう……今までのことポジティブに捉えていたのかよ……。
頭が痛くなってきた……。
「間違いはお前だよ……スール……どんなけ頭の中精霊でいっぱいなんだよ……」
「最低ね……本当に最低……」
みんな呆れています……。
「フフフ、私と精霊さんの前ではどんな困難があろうと愛の力では無意味です! そしてもっと認めてもらったら暁には契約……いえ、結婚をします!」
さすがの俺もドン引き……。
みんなスールさんを哀れな目が見ている。
『よし、レイ、コイツを野放しにしてはいけない、魔剣で切り刻ざもう!』
『それならアタイも手伝うぜ! 魔法で八つ裂きにしやる!』
『でしたら私も氷で――』
みんな恐ろしいこと考えています……。
「いやぁ――――! 私はこんな奴と契約も結婚もしたくない!」
魔力が乱れたのか【隠密】が解除された……あっ、マズイ……。
「やっと姿を現れましたね! 声が素敵でうっとりします……恥ずかしがらずに私のとこへお出で――」
「このバカ痴漢アニキ! 目を覚ましなさい――――!」
リンナさんはスールさんを殴ろうとするが――躱され、距離を取らされる。
「その手はもう効きませんよ! リンナ、私に試練を与えてくれてありがとう! これで私は無敵です!」
「なっ……避けられた……」
長年リンナさんに鍛えてられたか、もう攻撃を見切れるほどになったのか……。
「まだ話は終わっていませんよ! 最後の3つ目はなぜ子どもが商人をやっているのですか!? それに女の子を……危険です! 賢者の弟子がいるとはいえ、こんな幼い子に遠出させるとかあまりにもおかしすぎます! それでしたら私もついて行くのは当然です!」
最後の方は適当に言っている気がする……。
それにミツキさんの前で禁句を言ったぞ……最低だ。
「ちょ、この人は小人族でしょ!? それに男だよ! 何失礼なこと言っているの!」
「おい、スール! ミツキはこの街のために頑張っている商人だぞ! いくらなんでも言い掛かりはよせ!」
「スール! ミツキさんをバカにするな! 私もコイツとは行きたくない!」
「この変態……ミツキ様を愚弄するとは容赦しませんわ! 覚悟なさい!」
「私は本当のことを言ったまでです! 失礼なことはないですよ!」
思いっきり失礼なこと言っているぞ!?
ミツキさんの魔力が膨大になって身体を震えている……。
「私は小人族の男です! 失礼なこと言わないでくさい――!」
ミツキさんはスールさんに近づいた――速い!?
「へっ? ――――ブヘッ!」
そのまま腹を目掛けて回し蹴りをし――吹っ飛んでいった……。
うん、威力は申し分ないです……。
『いい蹴りだ! さすが小人族は強いね!』
「全く失礼な人です! この人大っ嫌いです! 二度と私の前に現れないでください! もちろん商館は出禁です!」
あの優しいミツキさんが顔膨らして怒っている……度が過ぎたな……。
スールさんは伸びていて聞いていない……これ俺が謝った方がいいよな……。
「あの……すみませんでした……時間が長くなり……ミツキさんまで巻き込ませて……」
「レイさんは悪くありません! この人が全て悪いです!」
「そうよ! このバカ痴漢アニキが悪いからレイ君は悪くないわよ!」
みんな頷いた……優しいですね……。
「スールは俺が処分を下すから安心して行ってくれ……」
「はい! お願いします! 気を取り直してみなさん、行きましょう!」
ザインさん、リンナさんに見送られながら街を出た――。
初日の朝からミツキさんを最悪の気分にさせて本当に申し訳ないです……。
あとで好きな料理なんでも作ろう……。




