8話 修羅場
アイシスがギルドに来て1週間以上経過した。少しずつだけど周りに馴染んできた感じはする。
ただ……リンナさんとの仲は悪いままで、むしろ悪化している……。
借家か中古の家に住むまで我慢してほしい。本当に申し訳ないと思う。
まだ狩りを禁止にされているため部屋でのんびりしていると、ホールの辺りから圧を感じて部屋を出る。ホールに向かうと周りが悲惨なことに……。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「助けて……」
「いやあぁぁ――」
「ゆ、許してください!」
崩れ落ちて震えている人、悲鳴や奇声を上げている人もいる。いったい何があったんだ……。
アイシスとリンナさんが睨み合っている。そしてリンナから圧が出ている。
『あの子スキル【威圧】を発動しているね。只者ではないみたいだ』
「そうなのか……圧を感じるが動けるけど……」
『君には加護と耐えられる魔力を持ち合わせているから大丈夫だよ!』
「エフィナと神様に感謝しているよ」
『いつも感謝してね!』
「ああ……2人を止めないと……」
スールさんが2人のところへ駆けつけていく――流石スールさん、威圧に耐性を持っているみたいだ。
「やめてください、リンナ! あなたの威圧は耐えられる人が限られているのですよ!」
「アニキは黙ってて!」
「がはぁ――――!」
「スールさん!」
リンナさんの裏拳でスールさんが飛ばされた……リンナさんは強いことは聞いているが大人1人飛ばす威力を持っているのか…しかも裏拳で……。
「スールさん大丈夫ですか!? ヒール!」
「ありがとうレイ、大丈夫ですよ」
大きな怪我ではなくて良かった……早く2人を止めないと……。
「あなた、多少はやるわね……。それで、レイ君とギルドを出て家に住むわけ!?」
「さようでございます」
「レイ君を誘導したのね……」
「そのつもりはございません」
「そのつもりはって……あなた! レイ君に何をするつもり! まさか淫らな行為を……」
勘違いで揉めていたのか……別にそういうわけではないのだけど……。
「何もしません……ただご主人様が望みなら……その……構いません……」
ちょっと、何を言っているのですか!? アイシスさん! 顔を赤くして答えていますけど! しかも、余計に相手を挑発していますよ……さらに圧が強くなっている……スールさんも震えている……。。
「もうダメだ……」
「気を保ってください!」
「そこまでだ!」
ザインさんが来た。やっと止められます……。
「リンナ! 周りを見ろ! 悲惨なことになっているぞ!」
「だって、レイ君が……」
【威圧】が止まったみたいだ。周りも少し落ち着いてきた。
「だって、じゃあねぇ! はぁ……嬢ちゃん、大丈夫か?」
「私は平気です。ご心配をおかけしまして……」
「なら良かった……リンナ! そこまで嫌うことはないだろ!」
「私は認めたくないから嫌なの!」
「まったくしょうがねぇなー。 1週間後に嬢ちゃんと決闘して、それに負けた方が言うことを聞くのはどうだ?」
勝手にそんなことを決めていいのですか……。
そんな話、2人が飲むわけは――。
「いいわね、それ! 私が勝ったらあなたはレイ君と別れて街を出てちょうだい!」
好戦的だ……いくらなんでもアイシスがそんな話を飲むはずが……。
「わかりました。私が勝ちましたら認めてください」
いいのかよ!?
「フン、いいわよそれで」
「決まりだな、場所は俺が決める。これで話は終わりだ」
リンナさんはスールさんに駆け寄って――。
「アニキ! 身体が訛ってるから稽古お願いね!」
「ちょっと待ってください! これから依頼に行かなくては――」
「お・ね・が・い・ね!」
「引っ張らないでください! まだ足がすくんでいますから引きずらないでください!」
リンナさんはスールさんを引きずりギルドを出ていった。
ザインさんも一安心したのか溜息をついている。
「はあ……当分リンナとスールは仕事は無理だな……誰か代わりを入れないと……すまない嬢ちゃん、変なのに巻き込んじまって……」
「構いませんが彼女にはお仕置きが必要ですね……」
やる気満々だな……。
「すまない嬢ちゃん……今回相手が悪すぎる……賢者の弟子だとしても……」
「どうしてですか?」
「もうこの際レイに隠し事は不要か……リンナは冒険者Sランクなんだぜ……」
…………えっ?
聞きなれない単語が出たのですけど……Sランクですか……。
「はい……? それ初耳なんですけど……」
「それはリンナから内緒って言われているからな、まあ知ってる奴なんてあまりいないけどな」
「じゃあ、なんで今は職員をしているのですか?」
「意外に気まぐれでな、依頼やるよりは職員が楽みたいだからな」
「そんな理由で……」
「まあSランクだと荷が重くなるからな……わからなくもないが……」
ザインさんはギルドマスターでありSSランクの資格がある、この道を通って来た人はやっぱりわかるのだな。
「自分に合わなかったってことですか?」
「そういうことだな。最初は呆れていたが、今は助かっているんだなこれが、大半のことをやってきたから冒険者の扱いにも慣れている。相手の適性も見分けられる。今はいないが、受付で生意気な冒険者を威圧してちびらしたこともある」
「そうですか……。じゃあ、職員がBランク以上の人ばかりなのはまさか……」
「おう、リンナを参考にして、職員はBランク以上に推奨した
そんなことがあったのか……リンナさんがギルドに改革を起こすとは……。
確かに思い返すと、受付で騒動を起こす人なんて誰も見たことはない。
「ところで、リンナさんの強さはどれくらいですか?」
「確か……20年前に竜を1人で倒していたな……」
「はい!? じゃあ……アイシスは……」
「厳しい条件だ、。嬢ちゃんが竜を倒せるなら大丈夫だが……」
竜を倒せるなんて、街では英雄扱いだぞ! リンナさんのことだから、歓声を浴びるのは嫌だから職員をしてるのかな?
しかしアイシスは勝てるのか……? 実力もまだ見ていないし、不安だ……。
「ご主人様、私はあなたの剣ですから大丈夫です」
その言葉に偽りはない。そうだよな、自分の魔剣を信じなくてどうする。
「わかった、けど無理はするなよ」
「はい」
「自信はあるようだな。俺のせいでこんな形になったから、リンナの戦法や癖とかは教えられるぜ」
「その必要はございません。私は対等な形をとりたいので……」
「そうか、嬢ちゃん! 期待してるぜ! 俺は仕事に戻る」
そう言ってザインさんは部屋に戻った。決闘は1週間後、俺にできることは稽古を手伝うぐらいしかないと思うのだが……。
「稽古は必要か?」
「大丈夫です、ですが準備が必要なので部屋で準備をします」
「そうか、わかった。休憩はしっかりするように」
「はい」
お辞儀をして部屋に戻っていく。
……さて、周りの人のケアでもするか……。