874話 長老の家
靴を脱いで大きな畳のある部屋――床の間に案内される。
下の収納――地袋から座布団を人数分を出して座る。
しかも、俺たちが入れるくらいの広さだ。
ここまで広いと里の人と集まる集会所になっているかもしれない。
ハナヨが緑茶と羊羹を出してくれた。
「ありがとうございます。ここに来ると落ち着きます」
「それはよかった。チヨメはずっとここにいてもいいんだよ」
「それはちょっと……」
チヨメは躊躇いがあり返答できなかった。
急に抱きつかれたらそうなるよな。
ライカさん、誇らしげに長老に視線を送るのではありません。
「まだ迷いがあるようだね。帰るまでには決めてほしい」
どうしてもチヨメを残したいようだ。
「あんたはそればっかり。ごめんねチヨメ、このどうしようもないとぼけた長老は、ずっと帰ってほしくてたまらなかったんよ。本当は接吻したいほど溺愛したいんだよ。大事な弟の娘だからね。最初どう接していいかわからなかったけど、今は抑えて我慢しているだけよ」
ハナヨの発言でチヨメは苦笑いして引いてしまう。
キスしたいほどって……、いくら弟の娘でもダメだろ……。
「こやつ……チヨメに欲情しているのか……?」
それはないだろ……。ライカ、バチバチと電気を放出するのではありません。
「悪い、母上が変な空気にしてしまって。それでチヨメ、お偉いさんを連れて来たのはどうしてだ?」
「実は――」
チヨメは事の経緯を話すと長老たちは頷いた。
「なるほど、外では大変なことが起きているんだね。話してくれてありがとう」
「それでね――」
そのあとに空間魔法でいつでも行けることを伝えると――長老は無言で立ち上がりガッツポーズをする。
「そういうことだったら、早く言ってほしかった。だから魔法が使えるお偉いを連れてきたんだね」
「まあ、そういうことになります……」
「すまない、お連れの方、少し警戒してしまって申し遅れた俺はコウマだ。この里の長をしている」
やっと話してくれたか。まあ、この人数で来ると警戒するしな。
「こちらこそ急に訪ねて申し訳ない。俺たちは――」
長老たちに自己紹介をして話しを進めた――魔王と話し合いをしてほしいことを。
「わかった。俺たちでもどうにもならないなら、魔王殿に話しをする」
「よろしく頼む。そちらの都合で呼ぶから予定を立ててくれないか?」
「それは助かる。チヨメと一緒にいたいからそのあとで頼む」
やはりチヨメ優先か……。
「父上、鍛冶の途中だろ……。まさか放棄するわけないよな……?」
「何を言う、チヨメが大事に決まっている! 鍛冶なんていつでもできる!」
「良質な玉鋼を叩いて放棄するのはやめてくれ!」
放棄はダメだろ……。キリのいいところでやめてからにしろよ……。
「良質な玉鋼か。アタイは【鍛冶師】のスキルを持っている。長老の代わりに叩いてもいいか?」
フランカさん、いくら興味があるとはいえ、代わりにやるのは――。
「いいぞ、代わりに叩いてくれないか?」
いいのかよ!?
「父上! 人様を巻き込むのは、職人としてどうかしてる!?」
「見てわからぬのかコンイチ! この者は職人として一級の腕を持っている。俺よりはるか上の持ち主だ」
「父上がそこまで言うのであれば……。父上に従うよ……」
暴走して言ったかと思ったが、そうではないような。
しっかりフランカを見て頷いていた。
職人として見極めているかもしれない。
って小さくガッツポーズしていた……。
どっちもどっちって感じだ……。
「叔父さん……今回は伝えに来ただけで日帰りだけど……」
チヨメの発言で長老はボロボロ涙を流す。
「チヨメ……、行かないでくれ……」
「ごめんね。チヨメが帰ってくることを楽しみにしてたんよ。せめて1泊でも泊まってくれない? みんなの分の布団を用意するからさ」
「えぇ……」
チヨメは困惑して俺を見る。
まあ、変なことさせないように俺たちを泊めてもらえるし、別にいいか。
「チヨメの好きにすればいいさ。久しぶりに来たなら泊まっていけば?」
「じゃあ、お言葉に甘えて泊まります……」
「チヨメ、ありがとう!」
長老はチヨメに抱きつこうとするが、ライカが反応して前に出た。
「儂のチヨメだ! 勝手なことするでない!」
「俺のチヨメだ! 邪魔をするな!」
この2人……、犬猿の仲になりそうです……。




