873話 いぬっころと長老
「儂のチヨメだ!」
限界だったのかライカはチヨメと長老を引き離した。
「何をする!? 俺のチヨメだ! どういう関係かわからないが、チヨメはやらんぞ!」
お互いチヨメの腕をを引っ張って譲る気はありません。
もう2人は親同然の立ち位置になっていますな……。
「な、なんでそうなるの!? 2人とも離して!」
チヨメも苦労しているな……。
「そのくらいしたらどうだチヨメの腕が――」
「何やってんだ父上!? せっかくチヨメが来たのに印象悪くしてどうする!?」
「やめろコンイチ!? まだ抱き足りないぞ!?」
長老にそっくりな若い青年が来て、長老を引き離した。
どうやら息子のようだ。
「ガルルルルル……」
ライカは両手を地面につけて威嚇している。いぬっころになってどうする……。
本当にチヨメが好きだな。
「どうしよう……、2人ともおかしくなった……」
それはあなたが2人を狂わせたさせたのですが……。
いや、勝手に2人が狂気じみたと言ったほうがいいか。
「ライカ、チヨメがドン引きしているぞ。それ以上やると嫌われる」
「すまん……」
やっと落ち着いてくれた。
「父上もチヨメに嫌われたくないなら、前回と同じよう接してくれ!」
「そ、それは困る!? では――チヨメ、よく帰ってきた。長旅だったろ? お茶を出すからゆっくりしてくれ」
急に貫禄のある人になった。切り替えが早いことで……。
「よかった……。元の叔父さんに戻って……」
これからは感情を爆発することが多くなるだろうな。
これまでの長老とは違うことを受け入れないといけないぞ。
「はぁ……、世話が焼ける……。ところでチヨメ、お連れの人は?」
「お母さんと関わりがある人――いつもお世話になっている領主であるレイさんと皆さんを連れてきました」
「母親の故郷に行けたんだな。まさかお偉いの方まで連れて来るとは、何かあったのか?」
「それもありますが、皆さんは里に興味があって来ただけですよ」
「そうか、お連れの方もこの田舎に遠方はるばるお越しいただき、ありがとうございます。俺の家でお茶を出しますのでゆっくりしてください」
「えっ、コンイチ……、呼ぶのはチヨメだけで……」
「チヨメがお世話になっている方だぞ! 呼ばないのは失礼だ!」
「は、はい……」
息子の発言に急に縮こまるとは、息子には言い返せないようだ。
少々、チヨメにとって不意なことが起きたが、コンイチが農道を通り、案内をしてくれた。本当なら長老が案内するのだが、その本人はチヨメに視線を送っています。
それを見たライカは警戒をする。この2人、気を抜けない……。
農道を過ぎると平屋――周囲に家が広がる。
この造り……日本の平屋とほぼ変わらない作りである。
むしろ、小人たちが住んでいた家の造りほぼ変わらない。
もしかしらチトセの影響か? 周囲の畑はトマト、きゅうり、ナスなどの馴染みのある野菜と米も育っていたのもそうだ。
明らかに関係している。
というか、よくこんなところまで足を運んだのは驚くばかりだ。
奥に進むと――周囲はススキの草に囲まれている大きな平屋に着く。
「母上、チヨメとお連れの方が来た! お茶を出してくれないか?」
「チヨメが来たのか!?」
コンイチが大声で玄関から出てきたのは、190cmくらいある小袖の着た赤紫の腰まで髪がある額の左に赤い角が生えている美形の女性が出てきた。いろいろとデカいな……。
「お久しぶりです。ハナヨさん!」
「まあ、また会えて嬉しいよ! 元気にしてた?」
「はい! おかげさまでこの通り!」
「うん、しっかり飯も食っているし問題なしだ!」
「ちょっと……、恥ずかしいです……」
チヨメは軽々とハナヨに持ち上げられて、重さを確認する。
なんとなくだが、この人を怒らせてはダメな気がする。
この里の人で1番魔力が多い。しかも、長老が子犬のように震えていますが……?
「話はお茶を出してからだ。あんた、早く案内しな! 大事なお客さんを待たされるんじゃないよ!」
「は、はい! どうぞこちらに!」
長老、尻に敷かれていますな……。
鬼人だから貫禄のある人が長老と思ったが、イメージと逆でした。
まあ、厳しい人よりはいいか。




