856話 勇者との約束㉒
ケイトは殴ろうとするが、ノンダリは片手で受け止める。
「ガキとしてはなかなかの力だ。だが残念だ脱走者には殺せと陛下に言われているからな――暗殺拳!」
「――――グハァ!?」
ノンダリはもう片方の手を使いケイトの腹を殴り直撃する。
しかし、後ろに下がっただけで耐えていた。
「へへ……師匠の拳より弱いな……」
ケイトは防具――ミスリルの胸当てに魔力を集中させて軽い衝撃を受けただけだ。
「チィ、ミスリル使用の防具か。とんだ面倒なことしてくれる」
「お前の拳が弱いからじゃないか? 身体を乗っ取ったわりには、相性が悪いじゃないか? その醜い石の力を使っても弱いことを自覚してないか? だから魔物を使って自分は後ろで怯えながら見ている。これが大将なのが笑える」
「知ったようなマネを……。いいだろ……大将ノンダリ・エリックランの力を見せてやる――暗殺連続拳!」
ノンダリは本当のことを言われた。谷貝の身体を乗っ取っても強くなることはなかった。自分の見立てとは違って最大限発揮することができなかった。それもそのはず、勇者召喚しても誰でも強いとはかぎらない。
谷貝はその1人でノンダリは思っているほど力は得られなかった。
ただ、若い肉体を手にしただけだ。
挑発に乗ってしまい拳で殴ろうとするが、ケイトは軽々と躱してしまう。
「自分で大将と言いながら遅いな、師匠の拳のほうが早い――――旋脚!」
「――――ウブゥ!?」
ケイトは見計らって、ノンデリの腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。
「ガキが……いい気になるな!? ――――暗殺滅拳!」
「――――絶拳!」
お互いの拳がぶつかり合い、衝撃でお互い後ろに下がってしまう。
「なぜだ!? こんなガキと互角だと!? 儂の最強の技だぞ!?」
「なにが最強だ? 自惚れるのにほどがある。それ以上、谷貝の身体で愚行するのはやめろ」
「ガキがいい気になるな! ――――暗殺滅拳!」
「悪いな谷貝……無傷で救うことができなくて――――魔拳衝撃波!」
「――――ブアァァァァ!?」
ケイトはノンデリの拳を避け、両手に膨大な魔力を集中させ腹に当てると、大きな窪み――衝撃が身体に襲いかかり、吹っ飛んでしまう。
ノンダリは痙攣して立ち上がることができなかった。
あまりの衝撃で全身――骨や筋肉を破壊したからである。
「これなら私の出番はなさそうね」
後ろで見ていたリフィリアはホッとしていた。
リフィリア自信もここまでやるとは思っていなかったようだ。
「なぜだ……さ、再生が遅い……」
「決まっている。谷貝がお前に好き勝手しないように抵抗している」
「もう儂のものだ……。そんなデタラメを言うな……」
「俺と谷貝には絆がある。お前にわかるかよ。終わりだ――」
ケイトは右手――利き手に膨大の魔力が集まりノンダリに近づく。
「絆か……。その絆踏みにじってやる――」
その瞬間、邪石が粉々に砕け散り、黒い靄に包まれる。
「ケイト下がって!」
「――――遅いわぁぁぁぁ!」
「――――ガハァ!?」
「ケイト!?」
リフィリアが大声で言うが遅かった。
黒い靄から見えない速さでケイトに複数の拳が襲いかかり、吹っ飛んでしまう。
靄が消えるとそこには――2m以上あるスキンヘッドで腕が6本ある大型の男である。
谷貝とは明らかに違う身体だ。




