854話 勇者との約束⑳
アンバーは地面に叩きつけられたが、そこまで傷を負うことはなかった。
「バカがバカでよかった。天使になっても【人化】と変わらない――非力で助かった。まだ元の姿のほうが威力があった」
そう言いながら仰向けになって高笑いしているホリデグア見る。
「仕方ない、あのバカにまた現実を見させるか――」
呆れながらゆっくり立ち上がって、飛んで亀裂から出る。
ホリデグアは生きているとわかると高笑いをやめて口を開いたまま硬直する。
「ロックバードみたいな顔をして何を驚いている?」
「どうして死んでいない!? 魔王を殺す技だぞ!?」
「わからないのか? お前の非力な拳で殺せると思うか?」
「ふざけるな! ふざけるなふざけるなふざけるな! ――――クワァァァァ!」
ホリデグアは発狂し、地面が揺れるほど騒音である。そして現実を受け入れないのか魔力も乱れはじめる。
あまりにもうるさいのかアンバーは耳を塞ぐ。
「ロックバードみたいに喚いでスッキリしたか?」
「私はあのアホみたいな鳥とは違う!? あまりにも不快だ!? お前の顔など見たくもない!?」
「奇遇だな。オレも同じことを考えていた」
「うるさい――――ジャッジメント!」
「――――闇竜烈刃!」
「――――ブエェェェ!?」
アンバーは巨大な光を避け、ホリデグアに近づいて腹を殴って吹っ飛ばした。
「何度も同じ魔法が通用すると思うな。バカにもほどがある。だからボスになれない」
「だ、黙れ!? どいつもこいつも……私をバカにしやがって……」
「本当のことだ。元同胞はお前がいなくなって清々している。お前抜きで幸せに暮らしている」
「ふざけるなふざけるなふざけるな!? 私より幸せになる権利などない! あいつらは私の奴隷だ! お前を倒したらあいつらを殺す!」
「お前、元同胞を奴隷と見ていたのか?」
「そうだ! 私より知能が低い奴は奴隷も同然だ! 歯向かったなら殺すだけだ!」
「そうか……。もうバカには付き合ってられん――」
アンバーは呆れながら膨大な魔力を放つと――小柄だった身体が170cmくらいの大きさになった。
メアと同じ【魔力解放】のスキルを使う。これはシャーロから授かったスキルである。
膨大な魔力がある魔王にとってこのスキルは相性が良い。
「どうなっている!? 魔王が大きくなっただと!?」
ホリデグアはアンバーの姿を見て身体を震えていた。
それもそのはず、自分よりも数十倍以上の魔力があるのは、恐怖でしかない。
「バカに説明しても時間の無駄だ。お前はこの世の汚物として排除する。この世界の管理者として」
魔王ではなく管理者のとしてホリデグアは危険と判断したようだ。
「な、何を言っている!? く、来るなぁぁぁぁ――――ボヘェ!?」
ホリデグアは逃げようとするが、見えない速さで近づいて顔面を殴るって吹っ飛ばし――地面に叩きつけられると大きなクレーターができる。
「まだへばっている余裕はないぞ――」
「――――グブエェェェ!?」
アンバーはホリデグアの腕を掴み上に軽く投げ――地面に落ちてくる前に回し蹴りをして吹っ飛ばす。それを何度も繰り返してホリデグアの身体――顔面は潰れて角は折られ、翼はボロボロになってしまう。
そしてアンバーの拳には膨大な魔力が集中する。
「もう腐れ縁とはおさらばだ――――竜覇滅却!」
「――――ギャアァァァァ!?」
ホリデグアの胴体を殴ると――跡形もなく消滅した。
アンバーは倒したことを確認すると元の大きさになって大の字になって倒れる。
「疲れた! こんなにもバテるなんて聞いてないぞ!」
アンバーは【魔力解放】がそこまで負荷がかからないと思ったが、甘く見ていた。
だが、結果的にホリデグアを倒せたことホッとしている。
これまでの腐れ縁から解放されたからである。
「少し眠いぞ……。仮眠を取ったら行くとしよう……」
リフィリアたちの応援に行きたいが、魔力の限界でゆっくり眠りにつく。
だが、焦る必要もなかった。リフィリアたちが到底負けるとは絶対にないと。
だからアンバーは信頼し、眠りについた。




