84話 魔剣、競い合う
――山を登って行くにつれて、雲行きが怪しくなってきた。
雨が降れば、サンダーバードが優位になり少々厄介だ……。
この場合は近距離で戦うのはやめた方がいいかもしれない。
「こりゃあ雨が降りそうだな」
「フラグを立てるのではありません。炎技と魔法が半減しますよ」
「別に土砂降りでもなければ余裕だぞ! 仮に降ったとしても、アタイには地魔法があるから平気さ!」
確かに、雨が降ればフランカは相性が悪く力を発揮できない。
だからそのために地魔法があるのか。いろいろと考えているな。
それから数分くらい経つと雨が降ってきた――。
『あ~降ってきたね~』
「予想していたからなんにも影響はないぜ!」
「そうですか。けれど、私が来て正解でしたね。雨が降るほど優位になりますから」
アイシスにとっては相性が良いな。濡れた相手ほど凍らせやすいし楽かもしれない。
「言うね~。別にアイシスがいなくてもアタイは余裕だぜ!」
「そんなことを言っていると、足をすくわれますよ」
「ふっ、そのままそっちに返してやるぜ! だったら勝負するか? サンダーバードを多く倒した方が勝ちだ」
「わかりました。受けて立ちますよ」
なぜそこで勝負をする!?
魔剣同士お互いに協力して手伝った方がいいのに……。
『おもしろいね! じゃあ勝った方は、レイと1日中イチャイチャしていいよ!』
何を言っているのだエフィナは!?
話に乗るな!
「いいね~。俄然やる気が湧いてきたぜ!」
「ご主人様と……この勝負もらいます」
急に2人とも魔力を解放して、魔力の反応が膨大になっている……。
『もう勝負は始まっているよ! 早くしないとサンダーバードが逃げちゃうかもよ~』
そうやって2人を煽るな!?
「それじゃあ、アタイはあっちを攻めるとするか。ダンナは見学してくれよな」
「それでは私も。ご主人様、終わったあとは精のある食事をたくさん用意しますので、夜は覚悟してください」
2人は分かれて、反応がある場所に行った……。
「マスター……私の出番……」
「厳しいかもしれない……」
『ごめんね! アイシスとフランカにほとんど倒されるだろうから、出番は少ないと思うよ』
「ズルい! 私もサンダーバード倒したかったのに!」
やる気満々だった精霊は顔膨らませて納得いかないようでした……。
「まあ……狩られなかったのが来ると思うからそれを倒そうか」
「わかった……そうするよ……」
とは言ったもの……あの2人からは絶対に逃れられないと思うから、やることはなさそうだ……。
『ねえ、レイはどっちが勝つと思う?』
「この環境だとアイシスが勝ちそうな気もするけど……」
『客観的に見ればそうだね! だけどフランカも舐めてはいけないよ!』
「別に舐めてはいないけど、あとは運要素だな」
『やっぱりそう思うか~! ボクはどっちが勝ってもおかしくはないと思うね!』
「まあ、俺はどっちが勝とうが負けようが、無茶をしなければいいけど……」
――数分後。
周りから音が聞こえてくる。どちらかが戦闘に入ったようだ。
『よし、まずは1体目! お、もう1体いるとかラッキーだぜ! ――――炎烈破!』
『炎技使ってますけど、この雨だと魔力の消費が激しいですよ。――――アイシクルランス』
なぜか2人とも全員に念話を送るようにして戦っている……。
『そんなのは関係ないぜ! 昨日、たくさん酒を飲んだから魔力は十分だ! ――――刺炎! これで3体倒したぜ!』
『たくさんとは、いったいなんのことです? 5杯しか飲んでいませんでしたよ。――――氷旋華。私も3体倒しました』
『何言ってんだ! 10杯ぐらいは飲んでいたぞ! ――――フレイムランス!』
『いえ、それはフランカが酔っていて勘違いしているだけですよ。――――アイスバインド』
念話しながらとか余裕がありますね……。
大変仲がいいことで……。
2人の念話を聞いていると、こっちに凄い速さで、雷を纏った大型の鳥が来ている事に気がつく――サンダーバードだ。
『僕たちの方にも来たよ!』
『今すぐそっちに行くぜ!』
『私もそっちに向かいます』
2人とも来るのかよ!?
「それ、私の獲物! ――――サイクロン!」
「ギャアァァァァ――――!」
精霊は2人に取られないように、風上級魔法を使い――サンダーバードは暴風に飲まれた。
暴風が弱るとサンダーバードが落ちてくる。
「――――エア・プレッシャー!」
「ブエッ――――!」
そのまま風で叩き落とした――容赦がありませんな……。
「――――ウインドランス!」
最後に、風の槍で首を狙い仕留めた……。
「ふぅ……スッキリした……」
「満足したか?」
「うん! あとはもういいよ!」
「それは良かった……」
精霊が満面の笑みで返してくれた……それほどに倒したかったのか……。
精霊がサンダーバードを倒したのと同時に、アイシスとフランカが到着した。
「ちっ、遅かったか。仕方ない、近場を探すか」
「遅かったようですね。こうなれば手当たり次第見つけて倒します」
2人は移動しようとしたが、その瞬間――別の魔物の反応があった。
鎧を着たデカい熊が四足で走って来る――。
「ガアァァァァ――――!」
『アーマーベアーだね。鎧を着ているけど素早いし、鎧も硬いから気をつけてね!』
聞いたことがないから異常種か?
それに熊って、今の時期冬眠をしているよな……。
もしかして、2人が暴れて起こされたか……?
仕方ない、サクッと終わらせるか――。
魔法を使って倒そうとした時――アイシスとフランカが、お互いに魔剣と武器創造で剣を出してアーマーベアーに直進して行く――。
「邪魔です。――――氷刃乱華」
「邪魔だ! ――――豪炎乱華!」
「ガアァァァァ!」
2人は鎧を刃でえぐり――破壊して本体を切り刻み倒した。
容赦がない……。
「ご主人様、あとはよろしくお願いします」
「ダンナ、収納よろしくな!」
そう言うと2人は、何事もなかった様にこの場を去っていった。
これ、2人が協力し合えば敵なしだな……。
アーマーベアーと先程精霊が倒したサンダーバードを無限収納にしまった。
今日はやる事がないな……精霊は退屈だったのか、周りを散策しに行ってしまった。
数分後にまた周りに音が響く。狩っていますね……。
そのせいかまた、アーマーベアーがこっちに来た……今度は5頭も……。
『結構来たね! 数が多いし、3人とも呼ぶかい?』
「大丈夫だ。俺も少し暴れたいからいいよ」
『そう? わかったよ! でも無理だった呼ぶからね!』
そうと決まれば今回は氷と炎の魔剣を使う。
魔剣を両手に持ち――まずは周りから離れている1頭目を狙う。
近づいたら――左手の魔剣を下から振り上げる――。
「――――豪炎刃!」
「ガアァァァァ――――!」
鎧を破壊し本体に刃が通り――続けて右手の魔剣で刺す――。
「――――刺氷!」
「ガアァァァァ……」
刺した箇所が凍っていき――仕留めた。
「やけに刃が通りやすいな」
『それはもちろん、魔力が増えたから威力も上がっているよ! ちなみに、アイシスはフランカほどでもないけど、切れ味は上がっているからね!』
じゃあ、今後魔力が増えると魔剣も切れ味が上がるってことか……うん。末恐ろしい……。
更に2体がこっちに向かって突進して来ている――それをジャンプして回避する。
そのまま空中で氷魔法を使う――。
「――――アイシクルダスト!」
「ガアァァァァ!」
2体のアーマーベアーを冷気で囲い――無数の鋭い氷塵で身体を引き裂く――。
次第に鎧を破壊していき――アーマーベアーは傷だらけになり倒れた。
残りは2頭――その内の1頭が逃げていく――。
逃がすと面倒な事になるから、炎魔法を使う――。
「――――フレイムショット!」
「グガアァ!」
鋭い炎弾を放ち――鎧ごと貫通して倒れた。
最後の1頭は2人と同じ技を組合せて使う――。
「――――氷炎乱華!」
「グガアァァァァ――――!」
氷と炎を纏った刃で――鎧ごと引き裂き終わった。
少々やりすぎたな……。
『お疲れ様! 始めから魔剣を使うとかレイにしては珍しいね!』
「さすがに5体相手だと様子が見れないからな」
『そうだね! ここの周りにはもう魔物がいないみたいだし、2人が終わるまで休んでいなよ!』
「そうさせてもらうよ」
アーマーベアーを無限収納に入れて休憩をしていると、二人がまた念話を始めた。
『アタイの方は順調に進んでいるぜ! ――――フレイムバレット!』
『私の方は3体いますよ。――――ブリザード』
『何!? しかも【混合魔法】とか使って倒しているのかよ! ――――コメットバレット!』
『そういうフランカも使っていますよ。 ――――アイシクルチェーン』
『遠くにいたから使うに決まっているだろう! ――――フレイムナックル!』
『近距離戦が得意なのではなかったのですか? 魔法があまり得意ではないのならば、魔力消費が激しいはずですよ。――――豪氷刃』
『別に魔法が不得意なわけないだろう! アタイは炎の魔剣だぞ! ただ、魔法を使うよりそっちの方が楽なだけだ! ――――炎旋華!』
…………いや、まだまだ終わりそうにない……。それにしても、サンダーバードの数も多いな……。
『かなり魔力を使っているけど、大丈夫か……?』
『問題ありません』
『問題ないぜ!』
大丈夫なのか……。
まあ、気が済むまで待つとするか……。
――昼過ぎになり、雨も止んできた。
周囲の強い魔物の魔力の反応もなくなり、終わったみたいだ。
先にアイシスが戻って来る――。
「お待たせしました。今回は私の勝利は間違いないです」
何か根拠があるのか、胸を張っている。
相当自信があるようですね……。
『みんなこっちに来てくれ! ――――フレイムバレット!』
上空に炎弾が見える。フランカはその場所にいるようだ。
フランカはアイテムボックスとか持っていないから、そこにまとめて置いたのだろう。
待っている場所に行くと精霊が先に着いていた。
「フフフ……この勝負もらったな! さすがのアイシスでもこんなには狩れはしないだろ!」
フランカは山積みに置いてあるサンダーバードを自慢した。
結構狩りましたね……。
「私も負けてませんよ。間違いなく私の勝ちです!」
アイシスも無限収納からサンダーバードを出して、ドヤ顔をしている……。
結果は――2人とも16体狩っていたので、引き分けになりました。
『今回は引き分けだね! また次頑張ろうね!』
「今回はしょうがないですね……次は負けませんよ」
「噓だろ……自信があったのに引き分けかよ! 次は負けないからな!」
次もやるのかよ!?
もう好きにしてください……。
さて、帰るか……。




