842話 勇者との約束⑧
メアたちは真正面に来る帝国軍を待ち伏せする。
「地形が変動して遅いですこと……」
アイシスとマイヤが溶岩が固まったことによって平地ではなくなり、足場はデコボコと動きにくい地形に変わって帝国軍が向かっているのが遅くなっている。
地形に変わったことでメアたちには有利だが、メアは退屈そうである。
早く雑魚狩りを楽しもうとしているから関係ないようだ。
数十分後にやっと、遠目で見える距離に近づく。
「おかしいですこと……。ワタクシたちに気づく範囲なのに……。まったく警戒しませんこと……」
メアは帝国軍が警戒しないで向かってくることに不審に思う。
まるでメアたちをまったく見ていないように、どこか違うところを見ているかのように。
「しかも走らないで歩いて向かっているぞ。気味が悪い」
ライカも帝国軍の異常さに嫌な予感しかしなかった。
「ではライカ……、腐った臭いとかしませんか……?」
「腐った臭い? ああ、あいつらがアンデッドになっているか確認したいのか? それはまったくない。人であることは確かだ」
「フフフ……そうですか……。どうやら当たりくじを引きましたこと……」
それを聞いたメアは不気味な笑みを浮かべて楽しそうだった。
何か思いあることがあるようだ。
「儂はハズレくじを引いたと思う……」
ライカは相手の不気味さに厄介だと思っていた。
そして、十数mくらいの距離になると帝国軍はゆっくり剣を構えてメアたちに無言で襲いかかろうとする。
ただ、あまりにもぎこちない構え――素人が剣を持っている構えであった。それもボロボロな鎧を着て。
メアは不気味な笑みをやめて無表情になった。
「ライカ……、絶対手出しは、してはいけませんこと……」
「わかった。好きにすればいい」
ライカもなんとなくだが感づいたようだ。
「――――シャドウチェーン……」
メアは闇魔法で地面から無数の影の鎖を出して向かってきた帝国軍を縛り付けて拘束する。近くに向かい顔を隠した仮面を外した。
「よくもまあ……鬼畜なことをしてくれますこと……」
その姿を見て呆れるものだった――屍一歩手前の激痩せした男だった。
ほかに拘束した者の仮面を外しても同じだ。
「メア……こいつらはもしかして……」
「はい……一般人で間違いないです……」
「なんで戦闘の経験ないド素人を戦場に送り込むなんて異常だろ……。なんでこいつらは抵抗しない?」
「操られていますね……。本当に悪趣味ですこと……」
「なるほど、【奴隷契約】みたいなスキルを持っている奴が操っていることか」
ライカは前回――ウェミナスの法王が使っていたスキルだと思い納得した。
「こいつらはどうする? 邪石を付けられているぞ?」
「残念ですが……。生かせる状態ではありません……。早く解放させたほうがよろしいかと……」
「そうだな。邪石を付けられたら何をやらかすかわからないしな。悪いが恨まないでくれよ――」
ライカは刀を抜いて邪石を狙って切り、灰になって消えていった。
「ライカはあの子たちを目を離さないでください――――ダークブレイク……」
メアはライカに注意しつつ、闇魔法を使い、手を握る素振りをすると、邪石が砕け散り、次々と灰になっていく。
「わかっている。だが、一般人なら話は別だ。問題ない」
ライカは相手が素人なら戦いながらエミカたち守れると判断した。
だが、そのエミカは真っ青になり、わかってしまう――奥にいる者が誰だか。




