839話 勇者との約束⑤
「ヨシマツ離れなさい!」
アイシスは危険を察知し、慌てて言う。
ヨシマツは落ち着きのあるアイシスが大きな声で言うのは、よほどなことだと思い、後ろに下がる。
「めんどくさいことになったね……」
マイヤも危険だと察知して魔剣を出して警戒をする。
邪石はさらに禍々しく輝きを増し――切断された伊佐木の首を包み込む。
そして周囲の氷が溶け始めて地面が変動して溶岩になりかけている。
アイシスはこの場所にいれらないと判断し、空間魔法でマイヤとヨシマツと少し離れた安全な場所に移動する。
目の前にはもう溶岩の海になってた。
「邪石が機能していないと思いましたが、やはり機動しましたか。それも厄介なことに……」
アイシスはわかってしまった。なぜ邪石が両耳のピヤスにしたのか。
1つは地面の底――マグマの中に入っており、もう1つは――。
「――――ギャアァァァァァ!」
溶岩から出てきたのは奇声を上げているマグマ――液状のサラマンダーだ。
そして、溶岩が流れ込んで範囲を拡大する。
「伊佐木……お前なのか……?」
「――――ギャァァァア!」
ヨシマツはサラマンダーを伊佐木と思っている。
しかし、アイシスは首を振る。
「残念ですが、彼はもういません……。おそらく、彼が倒れたら邪石が機動する起爆剤かと……」
「じゃあ俺が伊佐木を倒さなければ……。俺が呼んだのか……?」
ヨシマツは顔を真っ青になり、自分のせいだと思いこんでいる。
「あなたのせいではありません。最初から彼は帝国に利用されていただけです。邪石を付けていたらこうなるのは時間の問題です。悪いのは帝国です。絶対あなたのせいではありません」
アイシスはすかさず擁護するが、ヨシマツは落ち込んだままだ。
自分がやったことに責任を感じているようだ。
「ウチもそう思う……。アイシス……ヨシマツを避難させてあのトカゲはウチがやる……」
「とてもありがたいですが、よろしいのですか?」
「うん……、あのトカゲに絶対に負けない……」
どうやらマイヤはやる気だ。前回レイが戦ったサラマンダーに似ていて因縁があるからだ。
「わかりました。ではヨシマツを避難したら……、不要なことですね。ヨシマツ、あなたのせいならば、最後まで見届けてください。それがあなたの罰です。逃げることは許しません」
アイシスは擁護をやめて現実を向き合おうとさせる。
すると、ヨシマツはゆっくりと頷く。
どうやら受け入れる覚悟はできているようだ。
「避難しないならもっと遠くで見て……、手加減しないから……」
「わかりました。存分に暴れてください」
アイシスとヨシマツは離れていき、マイヤは魔法の準備をする――。
「――――タイダルウェーブ……」
大津波を発生させ、マグマ全域を飲み込み周囲には蒸気が発生する。
「……ん? おかしい……」
マイヤは不審に思う。これくらいの範囲なら蒸発すら隙を与えないで冷えて固まるはずだからだ。
そして、津波が蒸発すると再びマグマが発生してさらに範囲を拡大する。
「――――ギャァァァア!」
刺激したのかサラマンダーは、怒ってマイヤに襲いかかる。




