837話 勇者との約束③
アイシス、マイヤ、ヨシマツは帝国軍のほうに向かわず、違う場所で溶岩を放出している相手のところに向かう。
そいつに近づくたびに空から無数の小さな溶岩の球を降ってくる。
ヨシマツはミスリルの大盾で2人を守りながら重戦士としての役目を果たしている。
「周りに火山がないのに溶岩が降ってくるなんておかしいぞ……」
「おそらく魔法の類でしょう。それしか考えられません」
「それが本当なら大変だ……。いるだけで大災害だぞ……。そんな奴がこちら側の大陸に入らせたら収拾がつかない……」
「そのために私たちがいるのです。まさかアルカナの占いが当たるとは思いませんでした。てっきり私は炊事としていかされたのかと」
アイシスはアルカナの占いをあまり信用してはいなかった。
占いで決めるのは普通ではありえないことだ。
だが、今回の件でアイシスは少し認めたようだ。
「いったい2人は何者なんだ? 溶岩を簡単に止めるメイドとスライムはこの世界では普通なのか?」
「いえ、普通ではありません。私はご主人様から創られた魔剣で、マイヤはスライムですが、ケガを負ったところ、ご主人様が魔剣にして治しました」
「2人も魔剣なのか!? あのときアルカナのときもそうだが、強力な魔剣を創れるレイさんは何者だ……」
「ご主人様はご主人様です。それ以上でもそれ以下でもありません。よそ見している暇はありませんよ。次が来ます」
すると、今度は巨大な溶岩が降ってくる。だが、マイヤは前に出てスライムの姿になり、身体で受け止めて吸収する。そして何事もなかったかのように人の姿に戻る。
「マズ……。食べるんじゃなかった……」
「また変なものを拾って食べるのではありません」
「だって……味見したくなるじゃん……。あそこの火山と味を比べたくなる……」
「いや、会話がおかしいって……、溶岩を拾い物にするなんて……」
ヨシマツは理解できなかった。アイシスとマイヤにとってはいつもの日常で、会話するほど余裕があるということだ。
そして溶岩を放出している者が見えると、ヨシマツは魔力を出して怒りを顕にする。
そこには、赤いロープを着たクラスメイトである伊佐木准だからだ。
「お前か……、伊佐木! もうやめろ!」
「ハハ、これは傑作だ! 誰が来ると思ったら奴隷に落ちて逃げた優等生じゃないか!」
「お前……何をしたのかわからないのか!? 街が大惨事になったところだぞ!」
「戦争に街も何も知ったことか。これだから優等生は困る」
「伊佐木……、お前だけは絶対に許さねぇ!」
「でたでた、優等生のお決まりのセリフだ。なんでメイドとちびっ子が一緒にいるかわからねぇが、相手してやる。いいぜ、来いよ」
ヨシマツは挑発に乗り、伊佐木に向かう。
だが、アイシスとマイヤは止めることはしなかった。
「ハハ、バカだな――――食らえ、マグマボール!」
伊佐木は魔法――手から溶岩球を出してヨシマツに投げつけた。
だが、ヨシマツは盾で軽々と受け流して止まることな伊佐木に突っ込む。
「なに? ―――――ゴハァ!?」
ヨシマツは盾で伊佐木を振り払うかのように吹っ飛ばした。
「やはり、接近戦では無理みたいですね」
アイシスは伊佐木を魔法だけ使うド素人だとわかり、ヨシマツを止めなかった。
所詮、何も訓練をしていなただの高校生ならわかりきったことだ。
「威勢だけか? 大したことないな。次は切るぞ」
「テメェ……落ちぶれたくせにいい気になるなよ……。また地獄に落としてやる―――ヴォルカニックパレード!」
伊佐木は地面に手を当て――周囲のあちらこちらの地面から溶岩――噴火をする。
「どうだ? 地獄の業火は? 熱くて苦しいだろ! 早くしないと後ろの奴らが焼かれて死んでしまうぞ優等生。助けに行ってはどうだ?」
伊佐木はアイシスとマイヤを巻き込ませて、卑怯な手を使う。
しかし、ヨシマツは助けに行かずに伊佐木に向かう。
「おま、2人はどうでもいいのかよ――――ギャァァァァァ!?」
ヨシマツは伊佐木に近づくと片腕を切断した。
「言っただろ……、今度は切ると……」
それもそのはず――アイシスとマイヤは周囲に冷気を発生させて近くで溶岩が固まって無傷である。伊佐木は何があったか、わからないままだ。




