823話 無効の魔剣
魔剣は輝き始めて姿を変える――150cmくらい――ライカより若干背が高い、白いスカートの制服に重ねて黒いフード付きのコートを着た、白に近い水色髪のポニーテールで、右は青で左は赤色のオッドアイをした。10代後半くらい――ヨシマツたちと年齢が近い耳が尖った――エルフの少女になった。若干、アイシスと同じスタイルに寄せている。
そうなるとアイシスを若くした感じだ。
「やっと、人の姿になりました。これからよろしくお願いします」
魔剣は頭を下げて礼儀正しかった。かなりおしゃべりが多いからフレンドリーと思ったが意外だ。
「ああ、よろしく頼む」
「さっそくですが、名前をお願いします」
「いきなりか……。これからみんなと会うし、決めないと面倒なのはわかるが、無効の魔剣だと考えづらい……」
「まあ、いきなり出てきた私が悪いんですけどね。ちなみにですが、私、タロット占いが得意なんです。こう見えても結構当たるのですよ」
無数のカードを出してシャッフルしている。
なんで急に特技をここで言う……?
しかも目を輝かせながら俺を見ている……。
完全に自分が付けてほしい名前に誘導している気がする……。
まあ、おかげで倒すことができたし褒美として与えるか。
「アルカナでいいか?」
「はい! ありがとうございます!」
満面な笑みで返した。やはり誘導していたか。
「じゃあ、よろしく頼むぞアルカナ」
「はい! いつでも頼ってくださいね。特にカード占いは大歓迎ですよ」
なぜか占いを強調するな……。占いは嫌いではないが、良くも悪くも意識してしまうから困る。まあ、カード占いだから受け流す程度にしておこう。
「――そうか、わかった。すぐに行く。レイ、プロミネンス情報があった。メデアコットが大変なことになった。誰もいなくなったらしいぞ。これから様子を見に行く」
精霊たちはもうメデアコットに偵察に行ったのか。
誰もいないのはどういうことだ?
俺たちが戦っている間に移動したのか? それにしてもタイミングが良すぎないか?
そんな短時間で移動なんてできない。
「俺も行くぞ」
「私も行きますよ」
「俺も行きます」
ヨシマツたちはライカに任せて、俺とアルカナとカイセイはソウタについていき、メデアコットの門前に着く。
門番をしているはずの帝国騎士がいない。そして魔力も精霊たちしか反応がない。
中に入ると、誰一人もいなかった。
辺りを確認したところおかしなことに――物を途中まで使っていることだ。
それも、市場なんて高価な品が置きっぱなしにしている。
商人が命としている品を置いていくのはあまりにもおかしい。
「こんな急に避難なんてできると思うか?」
ソウタも思ったか。
「無理がある。帝国騎士は傲慢な奴が多い。みんなを避難させるとは到底思わない」
「それなら私に任せてください! こういうときこそタロット占いです!」
アルカナは胸を張って自慢げに言う。
いや、ここで占いに頼るのはどうかと思う……。
「おいおい、お遊びをしている場合じゃないぞ」
「失礼な。私は占い師としては一流ですよ。これだからむっつりの人は困る」
「むっつりは関係ないぞ!?」
アルカナはソウタを無視してカードをシャッフルした。すると――カードの一枚が輝き始めて、そのカードを引いた。
「隠者の逆位置……。なるほど――避難をしたわけではないと思います。強制的に隠されたと思います」
「ありきたりな結果だな」
「まだ終わってないですよ――」
続いて光ったカードを引いた。
「皇帝の正位置……。ふむふむ、誰もがわかる予想ですが、帝国――帝王が権力によって強制移動されたようですね」
これもありきたりな結果だ。
「占いをしなくてもわかったことじゃないか?」
「むっつりの人は黙ってください。私の胸ばっかり見てるくせにどうしようもないですね」
「見ていないぞ!?」
ソウタはそう言うが、ガン見していているのは本当だ。
「こんなときに下心があるとは……、本物だ……」
カイセイに言われたらおしまいだな……。
また光ったカードを引く。
「正義の逆位置……。あー……これはいけないですね……。もう帝国に利用されてこの世にいないと思います……。結果としてはこれ以上の模索は無理かと」
そうなるよな、占いはともかく。アルカナの言っていることはあり得ることだ。
けど、メデアコットを捨てるのはどうしてだ?
俺たちにとってかなり有利になるぞ。




