817話 中二病勇者③
逃げ回っているツトムに俺は近づく。
「本気と言ったわりには遅いじゃないか?」
「な、なんで追いついた!? だ、だけど本気の一撃は強いぞ!」
ツトムは切りかかってくるが、俺は軽く受け止める。
ツトムは顎が外れるくらい口を大きく開けて驚いている。
「これが本気? 弱すぎだろ」
「て、手加減をしたに決まっている!? こ、これならどうだ――――ジャスティス神速剣!」
「――――エアリアル・リフレクト!」
ツトムが突っ込んでくるが、風魔法で俺の身体の周りに風の球体が創り――球体に剣が当たると、周りに回って元の位置に戻る。
「ど、どうなっている!? 絶対に正義の鉄槌を下したはずだ!?」
ツトムは同様が隠しきれず、何が起きていたのかさっぱりわからないようだ。
イングルプより邪石は強力だが、よく制御できていない。
焦っていると、魔力が乱れることがわかった。これは戦闘経験が日が浅ければそうなる。なんだ、思い違いだったな。
「正義の鉄槌とか言って空振りしてダサいな」
「ま、まぐれだ!? ――――ジャスティス連続剣!」
へっぴり腰で剣を振りながら突っ込もうとするが、元の位置に戻る。
また同じように繰り返して諦めない。それも何度も。
「ひ、卑怯だぞ!? 正々堂々戦え!?」
イラ立ちが頂点に達したのか、剣を俺に向かって投げ捨て、風の軌道に流されて元に戻り――。
「へっ? ――――ギギャァァァ!?」
ツトムの頭にぶっ刺さって自滅してしまう。
コイツ……ワザとやっているのか……?
ソウタと精霊たちは思わず笑ってしまう。
あのフォームで同じこと繰り返せば笑わざるを得ない。
よく笑いをこらえていた。
「勇者よりお笑いの素質があるんじゃないか?」
「よ、よくも僕をバカにしてくれたな!? 絶対に正義の鉄槌を下してやる!」
「いや、お前が自滅しているだけだろ……」
「喰らえ! 最強の正義の技――――ジャスティス最強剣!」
ネーミングセンスが壊滅的だな……。
仕方ない、これで現実を見させるか。
俺は魔法を解除し――。
「――――風塵剣!」
「――――ギャアァァァァ!?」
俺は魔剣を一振し――地面を抉る竜巻を発生させ、ツトムを飲み込む。
竜巻が弱まり落下した。
革鎧は破壊され、上半身裸になり胸に付いている邪石が目立つようになる。
「バカバカしい。もう諦めたらどうだ?」
「な、なんで僕がやられるんだ!? 最強の力を手に入れたのになんで剣が通らない!? ち、チートだ!?」
「それはお前のほうだろ……。この世の違法な邪石を使って自惚れて何が楽しい? お前は勇者と言い訳しながら人殺しをしている。その意味がわかるか?」
「黙れ!? 僕は選ばれた正義の勇者だぞ!? ちくしょうちくしょうちくしょう――――キエェェェェェ!」
急に剣を地面に叩いて発狂し始めた。自分が責められておかしくなったか。
そして急に静まり返っておとなしくなり、ゆっくりへっぴり腰で剣を構えた。
「――――ジャスティス神速剣!」
違う技が来ると思ったら同じか。
だが、俺を攻撃しないで後ろに通過した。
いや、違う――。
「均衡者がいるなんて聞いていないぞ!? 勝てるわけがない! それならエミカを連れて撤退だ!」
諦めてエミカを連れて逃げようとするのか。
ツトムは周りの人を避けて、エミカの目の前に。
まあ、心配することはない。
「グヘヘ……、エミカ……ご主人と一緒に帰ろう……」
「儂をよそ見するとは、随分ナメられたものだ――」
「えっ? ――――グボォ!?」
ライカはツトムの顔面を蹴ってふっ飛ばした。
詰めが甘いすぎだ。
ライカは雷の魔剣を出してツトムに近づき――。
「――――雷翔刃!」
「――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
ツトムを切り上げると――雷柱が発生して、ツトムに直撃してしまう。
これは感電だけでは済まされない。
ツトムは丸焦げになって落ちてきた。




