815話 中二病勇者①
ツトムは鼻息が荒くなり「エミカ」と叫んで連呼する。
ヨシマツたちはツトムの言動にドン引きしていた。
それはいいが、邪石が輝き始めて魔力が膨大になる。
少し嫌な予感がするが、様子を見るのは変わらない。
「なんであいつ咲花しか言っていないんだ?」
「知らないのか委員長、池垣は咲花のことが好きだからに決まっているだろ?」
「えっ!?」
ケイトの発言でヨシマツが驚く。
「知らなかったぞ……」
「「「知ってた」」」
「みんな知っているのか!? じゃあ咲花も知っていたのか?」
「うん……、私のことずっと見ていたから意識をしているのはわかっていた……」
「意外だな……」
「委員長は周りを見ているようで見ていないからしょうがないわよ」
「それじゃあまるで俺が視野が狭いって言いたいのか?」
「本当のことだからいいじゃない」
「何ベラベラとしゃべっているお前ら!? 僕を無視するな!? 奴隷の分際でいい気になるな! 僕のエミカを返せ!」
ツトムはさっきより足が早くなり、エミカに向かっている。
さっきよりは邪石をうまくコントロールしている。
俺とソウタ、ライカ、カイセイは武器を構えて――コトハとナノミは魔法の準備をする。
「先輩方、すまないが、俺にやらせてくれ」
ケイトは魔力を出して手をポキポキ鳴らし、やる気のようだ。
武器を持っていない相手だし別にいいか。
「わかった。危険だと思ったら割り込むぞ」
「ありがとうございます」
許可すると、ケイト前に出て装備しているミスリルの拳を魔力を込めて構えていた。
「邪魔だぁぁ! 脳筋野郎!」
「――――絶拳!」
「――――グブェ!?」
ツトムは避けることなく顔面にモロに当たってしまい、メガネが破壊されて吹っ飛んでいく。
だが、邪石の効果で潰れた顔面が再生する。
加減をしないのは意外だ。いや、邪石の効果を知っているから本気でやったかもしれない。強化された相手にここまでやるとは上出来だ。
「ぼ、僕のメガネ!? ど、どうしてくれる!? 弁償しろ!?」
「弁償も何もないだろ? 俺たちをバカにした罰だ」
「奴隷のくせに図が高いぞ!? 僕に指図するつもりか!?」
「何を言っている? 俺たちは奴隷でもなんでもないぞ。池垣、かなり落ちぶれたな」
「う、うるさい! 僕はお前たちと違って真の勇者だぞ! パレードが終われば褒賞としてエミカを僕の手元に入った――なのに、直前で逃亡だ! 僕はエミカのために戦争に参加したのにこんな仕打ちをしなきゃならない!? 僕の人生をめちゃくちゃにするな!?」
ツトムの言動でみんなドン引きする。
特に、エミカは後ろに下がって拒絶している。
「いい加減しろ池垣! 自分の欲望のために人殺しをするな!? 説得して罪を軽くさせようと思ったが、お前を捕まえて、牢屋に送ってやる!」
ヨシマツは怒り、前に出る。
「そっちがいい加減にしろ!? 真面目ぶっているだけのエセ委員長が!? いつも僕の邪魔して、いつもエミカと一緒にいる! 気に食わないんだよ!? エミカの隣は僕だぞ!?」
「武器も何も持っていないお前に何ができる? 強がるのもみっともないぞ!」
「ハンデをやっただけだ! もう怒った。僕の本気を見せてやる――」
そういうとツトムはいつの間にか剣を持っていた。
アイテムボックスか。それは驚かないが、持っている剣は――禍々しい邪石が付いた茶色の剣だ。
これはヨシマツに厳しいかもしれない。




