808話 女神の強硬手段
剥奪するほどまでの力を使うのか……。
シャーロさん……自分に責任を持っている……。
「剥奪どころではないよ。ボクみたいにシャーロはこの世界から記憶が消される。何もかもね」
だからエフィナは怒っているのか。
「そこまでしなくても俺たちと協力して――」
「ダメ……、これはアタシたちの問題……。グリュムは魔王に倒させる……」
「幼女神は頑固だぞ。もう決めたことだ、諦めろ」
アンバーは平然と言う。
この感じだと前から決めていたことのようだ。
「けど、今じゃないよね? 結界を張ってかなりの魔力を使ったから先の話だよね?」
「うん……。まだ先の話し……。バーミシャルの力を借りて現界したけど……、その魔力の消費もした……。それにグリュムを倒すのにもっと情報が必要……。グリュムの弱点をアンバーは構築するのにまだ足りない……。強化は一発勝負だから数ヶ月は必要……」
「やっぱりね。猶予はあるか」
それを聞いてエフィナはホっとひと安心する。
数ヶ月か……それまでに倒すしかなさそうだ。
「数ヶ月と言ってもあっという間だよ……。それまでここでゆっくりさせてもらう……」
「そのまま引退でいいの? みんなに忘れられて、下手したら天界に帰れなくなるよ。ボクよりキツい罰が待っている」
「アタシは失うものなんてないよ……。忘れられると言ってもレイたちが忘れることはない……。でもウェミナスから来た人は忘れないのは厄介……。そのときはよろしく……」
淡々と無表情で言っているが、下を向いて強がっているのがわかる。
かなり悩んだのかもしれない。
「嘘を言わないで、これまで築きあげたことを喜んでいたのに、簡単に手放すことなんてできるわけがない。シャーロを必要としている人がいっぱいいるんだから考え直して」
「アタシは揺らがないよ……」
「わかった。もし気が変わった言ってね」
エフィナはキリがないと思ったのか。諦めて部屋から出た。
「まったく、エフィナは相変わらずだな」
「魔王……そんなこと言わない……。エフィナちゃんはアタシのことを思って言っているだけ……」
「わかっているぞ。だが、幼女神も少し溝ができたのではないのか?」
「それは……、仕方ないこと……。でも…………もういい……いっぱい食べる……」
「やけ食いなら付き合うぞ! メイドよもっとくれ!」
2人はアイシスが再び菓子を用意して食べ続ける。
エフィナが気がかりだ。俺も部屋から出ようとすると――。
「エフィナちゃんを頼んだよ……」
シャーロさんは寂しそうに言った。
親友に本音を言えないのはかなりキツいだろうな。
部屋を出ると――エフィナはホール中心で大の字になって寝ていた。
エフィナも相当やられていますね……。
「そんなところで寝るなんてお行儀が悪いぞ」
「察してよ! あれだけの説得しても動じないんだよ! 落ち込むに決まっているでしょ!」
「落ち込むのだったらベッドにしてくれ……。それで、エフィナはどう思っているのさ?」
「どうって、もちろん止めるに決まっているでしょ! シャーロにボクと同じ道を行くのは必要ない!」
「じゃあそれまでにグリュムを倒せばいいよな?」
「どのくらいグリュムは強くなったのかわからないけど、最低でも深手を負わせほど強化していればシャーロを止めることができる」
「だったら【絆】化した結晶の魔剣の出番だ」
「本当は頼りたくないけど、レイの力を頼るしかない。だけど、グリュムと戦うとなったら絶対にボクも一緒だよ!」
「わかっている。そうなると、帝都に行って暴れるしかないか」
「それはダメだよ。【絆】化があるとはいえ、グリュムに強化された奴を倒さないといけなくなる。グリュムと戦う前に底が尽きる可能性だってある。その前にグリュムが出てこない可能性だってある」
むやみに行くのはダメか。
「今はおとなしくしていろと?」
「そうだね。シャーロの目をごまかさないと行けなくなったし、様子を見てから行動しよう。警戒されていないメアに偵察を頼んでおこう」
やはりメア頼りになる。
メアに申し訳ないが、救出が終わったら偵察をお願いする。




