803話 元勇者の宣言……
昼になると、カイセイとハーティが女神化した3人が一緒にいて、カイセイが熱く話しているのが聞こえた。3人はすごく困惑している……。
なんか面倒なことになっているな……とりあえず近寄ってみるか――。
「――それで俺は君たちを愛し合うと決めた!」
…………何を言っている……?
ハーティはよしとして、シャルさん一筋じゃないのか?
「「「助けてレイさん!」」」
3人は俺に気づくと俺の背中に隠れた。
「おい、3人を困らせるなよ……」
「すみません、急に言って驚かせたことは謝ります。ですが、俺が決めたことです! たとえレイさんに止められても、俺の意思は変わりません!」
「いや、急にこの子たちを愛そうと決めた……?」
「トリニッチさんの言葉です……。両方愛せと――だから俺はこの子たちも全員愛して幸せにします!」
暴走しているな……。トリニッチさんはそういう意味で言っているわけではないが……。
「なんでこの子たちも前提で愛すのさ……。どちらかというと母親じゃなくて娘のほうに似ているだけで――」
「娘に似ているからこそ愛します! 俺は娘のほうも愛さないと、母親をもっと愛せないと思います!」
どういう理屈だよ……。たまたま近くにいたウルマとララアはなぜか涙をボロボロこぼれ落ちて笑顔で頷いていた。
自分たちと重ねて聞こえたのはわかるが、そこは感動するところではありません……。
このままだとファルファまで巻き込むことになる……。
「ハーティ……愛した男がそう言っているがいいのかよ……?」
「ハハハハハ! これこそあたいが愛した男だ! 強い男には複数女がいるのは当たり前だろ? あたいは認めるよ!」
寛大でよろしいことで……。
「そいうことですレイさん。今日はこの子たちに宣言しただけなので、これ以上は何も言いません。これからハーティと手合わせするので――」
カイセイとハーティはその場をあとにした。
かなり面倒になったな……。じゃあ、ソシアさんも……、頭が痛くなってきた……。
近くで見ていたコトハとナノミは無言で俺たちに近寄るが……、ゴミを見るような目をしていた……。
ドン引きを通り越しましたね……。
「フフフフフ……ちょうどワタクシが戻ったタイミングで面白いもの見れましたこと……」
偵察に行っていたメアが戻ってきた。
「勘弁してほしいが……」
「冗談はさておき……、オーストロ家の方をお呼びしましょう……。十分収穫がありました……」
この短期間で収穫があったのはすごいな。
コトハとナノミに女神化の子を任せて、サリチーヌ家族を屋敷――客間に呼んでメアは羊皮紙にサインされた無数の契約書をテーブルに出して家族は契約書を片っぱしに見続ける。
「あった……間違いない……」
「父上、こっちにもありましたわ!」
次々と見つけ出して全部で十数くらいになった。
「ありがとうナイトメア嬢、これで子どもたちの行方がわかった」
「フフフ……まだ終わっていませんこと……。これから救出に行きますよ……」
「わざわざ私たちのために本当に申し訳ない……。しかし、入手するのにかなり大変だったのでは?」
「それですが……、おかしいことがありまして……、ドミベック商会の拠点には誰もいなくあっさりと侵入することができました……。警備も従業員も誰一人いませんでした……。
移転したかと思いましたが、物はそのまま置いてあったので……気づいたかと……」
「俺たちに大暴れした情報が入って、ここに来るとわかって夜逃げでもしたのか?」
「その可能性もあります……。大事な契約書も置いておくのは、逃げるのに時間稼ぎかと……。子どもたちの行方を捜している間に商会が逃げる。卑劣ですこと……」
つくづく姑息なマネをしてくるな。
まあ、どうせ帝都――城に逃げていて追うことは可能だが、裏にいるグリュムが何か仕掛けてきそうである。まだ本調子じゃないから、ここは我慢するしかないか。
子どもたちを優先としてドミベックの策にハマるとしよう。
まだ気になることが――。
「邪石は置いてなかったのか?」
「ありませんでした……。大切な品なので、それだけは持っていったと思います……」
さすがに置いていくことはないか。
あとはメアに任せよう。
その後、メアとサリチーヌの父――フェニッツはシエルに乗って子どもたちの救出に行った。
本調子だしもう少しゆっくりでもしようか――。
『レイちゃん、聞こえるー?』
ん? シャルさんの声が頭に響く。ということはこの世界でもつながるようにできたのか?




