794話 結晶の絆
――視界がはっきりすると、真っ白な空間――精神世界に入った。
そして、目の前には結晶の魔剣を持った記憶の俺がにこやかにいる。
「ほらよ、あとは任せたぞ」
記憶の俺に結晶の魔剣を渡されると、輝いて心が温かく、身体が軽い。
炎の魔剣のときよりも、さらに良い感じだ
「ありがとな。しかし、こんな頻繁に強化していいものなのか?」
「そんな簡単にはできないぞ。ただ、ルチルが予想以上に魔力を溜め込んでいたおかげで強化できる」
「たくさん食べて魔力を蓄積していたと思う。ルチル自身は準備していたのはわからないが」
「ルチルらしいな。かなり強化できたが、炎の魔剣より魔力を消費する。そこだけは気をつけてくれ」
「わかっているさ。今回は大丈夫だが、次使うときは余裕を持ってもやるさ」
「心配無用だったな。またな――」
「ああ、またな――」
記憶の俺は笑顔で手を振って見送り、視界が変わろうとする。
ありがたく使わせてもらう。
俺は結晶の魔剣に創造する――。
――元に戻ると、2本の魔剣は1つになった。
光が消えると、金針が入った虹色に輝く結晶の大剣になった。
これであの図体を簡単に切れる。
「わ〜い! アタシが強化された!」
先ほど起き上がれなかったルチルは平然として喜んで飛び跳ねていた。
どうやら【絆】化したおかげで本体は魔力を回復したようだ。
「ルチル、悪いがコトハとナノミを守ってくれないか?」
「わかった! わ〜い、アタシが最強になった〜!」
ルチルはスキップしながらコトハとナノミのとこへ行った。
よほど強化されて嬉しいようだな。
「ナ、ナンダ、ソノ剣ハ!? ヤ、ヤメロ!?」
イングルプは【絆】化した結晶の魔剣になったことがわかると、尻もちついて怯えている。
どうやら天敵だとわかったようだ。
ここまではっきり怯えるのは禁忌が危険信号を出しているのかもしれない。
「ゴブリンみたいに貧弱な姿に見えるとは、情けないな。これでも帝国軍の少佐か?」
「オレサマヲ愚弄スルナ!? 殺シテヤル!」
イングルプは俺の挑発に激怒して向かってくる。
ここまで単純とは……。まあ、おかげで面倒が省けた。
俺は決闘の場に下りてイングルプを誘う。
「――――シネェェェェ!」
イングルプは膨大な黒い魔力を拳に流し込んで殴ろうとする。
もうそんなデタラメな力は怖くはない――。
俺は魔剣を構えて軽々と受け止めた。
「オレサマの攻撃ガ効カナイ!?」
「もう終わりか? じゃあ俺の番だ――――豪晶斬!」
そのまま魔剣で前へ押し倒し、体制が崩れている隙に腕を狙い切り上げ――切断する。
切断口から金針が混じって結晶化する。
「――――イデェェェェ!? 針ガチクチクシテ、イデェェェェ!?」
当然だ。この大剣は金針の結晶の魔剣そのものだ。
触れれば針とともに結晶化して侵食させる。
「ナンデ再生シネェンダァ!?」
再生能力が追いついていないだけだ。もうグリュムに強化された相手でも負けない。
「覚悟はできているな?」
「フザケルナ!? オレサマワ、マダ終ワッテナイ! 撤退ダ! 覚エテイロヨ!」
涙目になりながら俺に背を向いて逃げ出した。
分が悪くなると逃げ出すのは本当に呆れる。
まあ、どんなに逃げ足が速くても無理だけどな。
「やっと、起きたか。心配する必要はなかったな」
ファントムは【擬装】をやめて俺の元にいる。
ファントムが追わないほど余裕みたいだ。
イングルプは観客席に飛び上がり奥に進もうとするが、膨大な魔力を持ったセイクリッドとモリオンが塞ぐ。【絆】化でルチルが強化されたなら、もちろん結晶騎士組も強化される。あと魔力も全回復のオマケ付きだ。
「――――邪魔ダァァァァ!」
「逃がしわせん――――覇王穿!」
「やってくれたな――――覇王穿!」
「――――ギギャアァァァ!?」
セイクリッドとモリオンは見えない早さでまだ距離があるイングルプの身体を突いて吹っ飛ばした。
そして俺の近くまで飛んで倒れ込む。本気を出せばかなり遠くまで吹っ飛ばせるのに加減したな。
「今度こそ、覚悟ができているな?」
「ヤ、ヤメロ。ナンデオレサマガコンナ目ニ合ワナイトイケナイ!? オレサマワ悪クナイゾ!?」
コイツ……自分が何をやったのかわからないのか? 本当に救えない……。
今すぐ弟の元に送ってやるよ――。
「――――極晶乱華!」
「――――ブギャァァァ!?」
俺はイングルプの全身を切り続け結晶化される。
そして結晶化された身体は砕け散って細かな粒子となって風に吹かれて跡形もなく終わった。
ルチルのおかげで倒せたはいえ、ここまで強いとは……。
マズいな……これから戦争をするのに、ほかの奴らがグリュムによって強化されたなら手に負えない……。
帰ったら相談しないと。




