78話 鍛冶の見学
――翌日。
『お寝坊さん、起きろ! あ・さ・だ・ぞ~』
エフィナの声で目が覚める。
『みんなもうご飯食べたからレイだけだよ!』
「早いな……まだ7時だぞ……」
『アイシスは裁縫でフランカは昨日の夜からリンナの竜の剣の改良で忙しいからね! 精霊は鍛冶の見学をしているよ! ほら、ご飯用意してあるから冷めないうちに食べな!』
みんな気合いが違いますね……。
食堂に向かうと――おにぎり、味噌汁、猪の角煮が置いてあった。
朝はこれくらいがちょうどいいのだが……やっぱり肉が多い……。
『今日はどうするの?』
「みんな作業にしているし予定もないから今日はゆっくり休むかなー」
『その方がいいね! 昨日の疲れもあるからね!』
「そうさせてもらうよ。しかし暇もできたな……お邪魔でなければフランカの鍛冶でも見ようかな」
『精霊が見ているから大丈夫だと思うよ! 今聞いてみるよ…………平気だってさ!』
エフィナさんいつもながら対応が早くて助かります。
朝食を食べ終え、庭に設置してあるフランカの家に入り――奥にあるの大きな扉開けると金属音が鳴り響く。
フランカはゴーグルをかけて炎を付与した金鎚で剣を打っていた。
俺に気づいたのか、いったんやめてゴーグルを外した。
「おっ、来たなダンナ、そこのイスに座って見てくれ!」
「悪いな、取り込み中のところ中断させてしまって」
「いいってことよ! 一段落ついたから問題ないぜ!」
「ハハハ、そうか。集中してるときは何も言わないから安心してくれ」
「いや、逆に気になったことは言ってくれ! アタイはほかの鍛冶師と違って寡黙なのは嫌だからな!」
いいのかよ……普通の鍛冶師ならいろいろ言うと怒られるのに懐が広いですね……。
フランカの横で見ていた精霊がフラフラとこっちに来た。
「暑い~マスタ~のお腹借りてもいい?」
熱の暑さにやられたか。
「いいよ、そこで休んでな」
「うん……ありがとう……」
「よく近くで見られたな。耐性がないと倒れると思うが……」
「私は風である程度防いでいるから大丈夫だよ……」
やっぱりそこは風の使っているのか……。
「それじゃあ、アタイは最後の調整するから精霊はそこで見ていな! これからもっと熱くなるからな!」
フランカは再びゴーグルをかけ、作業を始めた。
赤く溶け込んだ液体の様子を見ている。
金属を溶かしているのだとわかった――いや待てよ、この金属って……。
「この溶けている液体はもしかして……」
「ミスリルだよ。これにリンナ嬢の剣と合わせるのさ! もう少しで流せそうだな」
いい素材使いますね……。
「じゃあ、叩いていた剣はリンナさんのなのか?」
「ああ、そうだぜ! 余分なところをなくしたからもう原型がないぜ」
あのゴツイ竜の剣が一般的な剣の形になっていますね……これ大改良じゃん……。
「そろそろいい具合だな」
フランカは型のような物に剣を入れ――溶かしたミスリルを流し込んだ。
いわゆる鋳造のやり方だ。
そして型に魔力を通した――数分後。
魔力を通すのを止め、型から外し流したミスリルは固まっていた。
「いい具合だな! さて、ここからが本番だ!」
フレイムハンマーとミスリルを流した剣の剣の茎を持ち、魔力を両方に流して剣を叩いていく――。
時間が経つにつれ、次第に剣の形になってきた。
「いい具合に魔力も通しやすいし、これでいいか」
剣を叩くのを止め――水で冷やし、砥石で刃を研いでいく――。
「完成したぜ! これならリンナ嬢も喜ぶだろうな!」
改良した剣は前よりも一回り大きく、ミスリルを使ったことで光沢を帯びている。
「試し切りでもするか――――アースウォール!」
岩壁を創り――縦に一振りした。
岩は豆腐のように簡単に切れた……。
「よし、前のより軽く、魔力も通しやすい、切れ味も申し分ないぜ!」
「綺麗な剣だ! すごい!」
『すごいね! これならオリハルコンの素材よりも上回っているよ!』
とんでもないの作りましたね……恐るべし【鍛冶師】スキル……。
「時間に余裕があるな。ついでに鞘も作るか」
鞘も作るとか徹底してますね……。
そのままフランカは紙に鞘の設計を書いて――1時間が経過した。
「これならいいのができそうだ。ダンナここからはあまり派手さがないがこれも見るかい?」
「邪魔でなければ見るよ」
「そうか、できるだけ話して作るから退屈はさせないよ」
いや、そこは気を遣わなくていいのだが……申し訳ない……。
――その後。フランカは俺と話しながらも淡々と作業を進めた。
夕方になっても休憩せずに手を止めない。
「悪いが、これができあがるまでここにいるからダンナは戻って夕食でも食べてくれよ」
「わかった、あまり無理はしないように。早く作業に取り掛かるように牛丼を作るから食べてくれ」
「ああ、ありがとな!」
ということで夕食は牛丼と味噌汁を作り――フランカに台所に置いてあると言って屋敷に戻った。
アイシスも裁縫に夢中でメイド室にこもったまま。
2人とも無理をしないでほしい……。
――――◇―◇―◇――――
――翌日。
「ダンナ、起きてくれ! できたぜ!」
その声で目を開けると。フランカの手には剣を鞘で納めている1級品を持っている。
鞘はキングバッファローの角と皮、シルバータートルの甲羅を組み合わせた物だ。
「すごいな……こんなに早く作れる物なのか……」
「歯止めが効かなくてつい徹夜してしまったぜ」
やっぱりそうなりますよね……。
「鞘に納めていると見た目はシルバーソードを持っている感じだな」
「おっ、ダンナわかっているね! そうさ、さすがにミスリルを使った剣だから周りにバレないようにカモフラージュしたのさ! これなら変な奴に絡まれないだろ?」
「そこまで考えているとは凄いな……」
「リンナ嬢の性格だとあまり目立ちたくなから考慮したわけだ。さて、まだいろいろとやることが多いから工房戻るぜ!」
「まだやるのか……」
「領主様の献上品やアネキの要望で作って欲しいのがあるからな。今日はキリがいいところでやめるから心配しなくていいぜ!」
「そうか……エフィナの要望? それは何を作るんだ?」
「作ってからのお楽しみさ。それと、出来上がるまで工房は立ち入り禁止だからよろしくな」
そう言って寝室を出た。
エフィナが要望するとか珍しいな。
「なあ、エフィナは何を頼んだ?」
『えぇ~内緒だよ~乙女の秘密を聞くもんじゃないよ~』
あっ、はい……答える気はなさそうでした……。
『っていうのは噓で、楽しみに待っていなよ! もしかしたらレイにとって需要がある物だからさ』
「俺に? それならありがたいけど」
『うん! すぐには完成しないから気長に待っているといいよ!』
「そうするよ」
寝室を出ようとすると精霊が顔を膨らしたままこっちに来た。
「マスタ~フランカに急に工房の出入り禁止にされた~」
「フランカもちゃんと説明しただろう? それまで我慢だ」
「そうだけど……でも何を作るか気になるよ~」
『これだけは我慢してね! そうだ、この前しっかりお留守番していたから、レイがご褒美に本を買ってくれるよ!』
「えっ!? 本当に……?」
話を強引にそらしたな……確かにギルド内でスールさんに追われて大変な思いをしていたから、そのくらいはしないといけないか。
「わかったよ。好きな本を買ってあげるよ」
「やった! ありがとうマスター!」
膨らした顔も元に戻り俺の周りを物凄い速さで飛んでいる……。
意外に精霊って現金なのか……。
「それで何が欲しい?」
「大きい調合書が欲しい!」
これはまた大きな買い物になりますな……大金貨1枚以上の値段はいきそうだ……。
アイシスにお金は渡してあるけどさすがにこの金額は相談できないか。
日頃のお礼もかねて買いますか。
「わかった。街中を通るからフードの中に入って」
完全に精霊の姿が見えるから街中大騒ぎになってしまう。これは最低限守ってほしいところ。
「もうその必要はないよ! これを見て!」
精霊の姿が消えた――魔力の反応はあるな。
「【隠密】のスキルを覚えたのか?」
「そうだよ! マスターたち出掛けているときにリンナちゃんと一緒に練習をしていた! 成長してから試しにやったら簡単にできるようになったよ! これで残念エルフから逃げられる!」
まさか練習をしていたとは……これで不便なく行動できるから精霊にとってはストレスフリーになったはずだ。
リンナさんには感謝しかない。
『良かったね! やっとにっくき残念エルフから解放されて嬉しいよ! 先生泣いちゃう!』
「うん! これもマスターとリンナちゃんのおかげだよ!」
「じゃあ、朝食を食べてから行くか」
――朝食を摂り、屋敷を出て本屋に向かう。
精霊は姿を消しているが【魔力感知】で隣にいることがわかる。
本屋の中に入るとすかさず調合書専用の棚に向かっていった。
『マスターこれが欲しい!』
念話で送ってくることもしっかりしてますな……。
精霊の方に向かうと、ほかと比べものにならないほど分厚い調合書だ。
まさかとは思うけど、これずっと欲しかったやつかもしれない。
それを持って会計をすると――大金貨2枚の価値でした……。
意外に出費しました……。
「ありがとう! マスター!」
「結構高かったから大事にしてくれよ」
「うん! 早く屋敷に戻って見たい!」
「最近調合書の本読んでいるけど、何か作りたいのか?」
「そうだよ! ポーションやマナポーションを作りたい! それを作ってマスターの役に立ちたい!」
そんなことを考えていたのか……それじゃあ今後作れるようになったら今さっき買ったの安いもんじゃん……。
「そうか、期待して待っているよ」
「うん、期待して待ってね!」
会話ができなかった分、精霊の新たな部分を発見しました。
そうなると材料が必要だな。
まあ、そんな早くはやらなそうだし準備ができたら喜んで用意でもしよう。




