788話 少佐の暴走①
禁忌を食らった者は黒い靄に侵食されて身体がなくなった。
違う、禁忌によって魔力の塊になった。
そして、イングルプのほうに向かって、そのまま口に運ばれて食べられた。
「う、メメぇぇぇぇ! 聖スイと同ジあジだ! モッどよごセ――」
またイングルプは逃げている観客に黒い靄を放出して何度も繰り返す。
もうイングルプにとって観客はごちそうにしか見えていない。
ただおかしいなことに俺たちには放つことはしなかった。
逃げている人しか襲わなかった。
知能が低下しているのか? 禁忌より副作用か?
「な、なんですの……。あの醜い化け物は……皆を食べている……」
「お嬢様……こ、怖いです……」
サリチーヌとメリアルは抱きついて足がガクガク震えている。
この2人にとって得体のしれない化け物だけよな。
空間魔法で逃げるのが一番いいが少し我慢してくれ――。
「――――ピュリフィケーション・サンクチュアリ!」
俺は光魔法を使い、周囲は優しい光に包まれて、光の粉が降り注ぐ、周囲に広がった黒い靄は消滅した。
だが、侵食された者は魔力の塊になってしまい手遅れだった。
それと……、イングルプは黒い靄は消えたが、痛がってはいない。
「ど、ドウなッていル!?」
それでも何が起きたのか周囲を見渡して驚いている。
知能が低くなってよかっただけはある。
「カイセイチャンスだ!」
「はい! ――――断絶天斬!」
カイセイは飛び込んでイングルプの頭上から切り込み、真っ二つにする。
身体を真っ二つにすればもう倒したも同然――はっ……? 裂けた箇所から細胞がボコボコ増えて【再生】している……。
ただの再生ではない……もう片方も再生してイングルプは2人になった……。
「「オデさマにナニをシた?」」
再生して分裂するのかよ……。
「カイセイ、下がってくれ! ――――覇晶の豪雨!」
ファントムは無数の結晶の矢を雨のようにイングルプを降り注ぎ、全身にぶっ刺さる。
それでも痛がってはいない。寧ろ、笑っていた……。
「「ぐへへ……キモちイイ……」」
「こいつ、痛覚がイカれているのか? 快楽になっているのは異常だ」
「分裂して同じ言動――マゾなのは気持ち悪いですこと……。では嫌がることをするだけです――――マナドレイン……」
メアは闇と回復の【混合魔法】を使い――周囲にある魔力の塊を回収して手のひらに集める。
「「オデさマのメシ!? カえセ!」」
イングルプはメアに奪われ激怒し、ボコボコと身体を膨張させて刺さった矢を無理やり外して無傷の状態になり、四足走行で俺たちに向かってくる。
「まあ……なんてせっかちですこと……ちゃんとお返しします――――グラビティブレイク……」
メアは風と闇と空間の【混合魔法】でアイツらの周囲は黒い球体に包み込まれ、手を握る仕草をすると球体は圧縮され――あのデカい図体の半分は圧縮された。
この調子で圧縮すれば消滅する。かなり厄介だったが身体に圧をかければ再生も分裂もすることはできない。これは勝負あった。
しかし、それ以上は圧縮されることがなかった。
「メア、どうした?」
「主様……、力を入れても変わりません……。そろそろ限界です……」
魔法が解除されてイングルプは無傷だった……。
「「キモちイイ……、もっとクれ……」」
コイツ不死身になったのか……?




