770話 対戦相手と一緒
カイセイに理由を聞く――卑怯なマネをしたから詫びとして酒でも奢らせてくれとのこと。
それは次の試合が終わってからにしてくれないか……。
なんで今から……?
「そう言って何か企んでいるですの? わたくしは嫌ですわ」
当然だが、サリチーヌは対戦相手と一緒に行動するのは反対だ。
怪しい集団ではないが、ここは控えてほしい。
「細かいことは気にするな! あたいはゴンザレスに興味があるだけだ! あの大人数とサムワ相手に一瞬で倒すなんてこんな男めったにいない! ゴンザレス、こんないい女が誘っているのにつれないじゃないか」
カイセイをとても気に入っているようです。
あれだけのことをして興味を持たないわけないよな。
「明日試合だから酒なんて飲まないぞ! というか俺は酒は飲まない!」
カイセイからしても迷惑だろうな。
「そうですか……。ですが……ワタクシたちと行動するのはかなりの危険ではないのですか……? 酒に毒を盛られる可能性を考えたりしないのでしょうか……?」
「そんな野蛮なやつらではないのはわかっている! あたいの勘を信じる!」
メアの発言でもハーティは即答する。
勘で判断してもな……。
「フフフフフ……いいでしょう……。では一緒に行動しましょう……」
「メアさんいいのかよ!?」
「おお! 物わかりの早い主人だ! ではゴンザレス、酒を飲んで語ろうではないか!」
「俺は酒は飲まないって言っているだろ!?」
ハーティはカイセイの肩を組んで上機嫌だった。
メアが勝手に決めるのはわかっていたし、仕方ない。
何もなければ別にいいか。
ロベントスは、姉――キャスリーの様子を見たいからと途中で別れる。
大人数で宿屋に行くと、監視――ジャントとデフィーが中に入ってトリニッチさんとべネッタが談笑していた。
監視をせずに仲良くなっているのですが……。
「あらおかえりなさい〜。もう終わったの〜? あら、大人数連れてきてどうしたの〜?」
トリニッチさんに説明すると頷いて納得してくれた。
「ということなので、明日もよろしくお願いします」
「わかったわ〜。何日でもかかってきなさい〜」
引き続きやってくれるのは助かります。
「なんだ、まだ暴力少佐と闘っていなかったのか」
「これは明日に持ち越しだな」
助言をしたジャントとデフィーは少し残念そうだった。
早くイングルプから解放されたいようだ。
「そんなことより〜、みんなで飲みましょう〜。ちょっとここのお酒は気になっていたの〜」
「ここに来て酒を飲んでいないのか!? なら、あたいが上質の酒を教えてやろう!」
なぜかハーティとトリニッチさんは意気投合して飲み会が始まった。
この大人数は宿屋に入れないから外でテーブルとイスを設置して近くの酒場に酒をデリバリーさせてもらい、みんな飲んで盛り上がっていた。
俺も一緒に参加していると、傭兵たちはみんなまともだった。無礼講の場なのに仕事の話しをして真面目なやつが多かった。
飲んでいるのに仕事熱心なことで。
カイセイはというと――。
「ほら、ゴンザレス! あたいの酒が飲めないのか!」
「オホホホ、楽しいわね!」
ハーティとトリニッチさんに挟まれて逃げられない状態です。
カイセイは俺に気づくと目で「助けてくれ」訴えている。
仕方ないから同じテーブルのイスに座った。
「おお、大将がやってきたか! お前たちが持ってきた酒は美味だな! こんな上品な酒は初めて飲んだぞ! 毎日の飲めるなんて最高だな」
メアが純米酒を振る舞ったか。
「それはどうも。造った仲間に伝えておくよ」
「しかし、お前たちは強いのにどこに住んでいるんだ? こんな強い傭兵がいるのは聞いたことがない」
疑うのも無理もないか。最強傭兵団の副団長を軽々倒すほどの強い傭兵なんて傭兵界隈でいたらすぐ情報が入る。
ここはごまかすことはできない。ボロが出ないようしよう。
「悪いな、守秘義務なもので。教えることはできない」
「守秘義務ね……。まあいいか。変なことを聞いて悪かったな」
「何も聞かないのか?」
「守秘義務って言っているやつにしつこく聞いても教えるわけないだろう? 時間の無駄だ。その分の時間を酒を飲んで堪能したほうがいい」
意外にあっさりしていた。まあ、聞かないのはこちらとしては助かる。
「それならゆっくり堪能してくれ」
「それより、ゼロに相談があるんだが――あたいが勝ったらゴンザレスをあたいたちの団員にしたい。その許可がほしい」
まさかカイセイを引き抜きにくるとは。よほど気に入っているようだな。
「俺たちが負けたら決める権限はない。好きにすればいいさ」
「よっしゃー! 許可をもらえたら燃えてくる! 酒が飲み終わったら練習だ!」
そう言いながらハーティは大量の酒を飲み続けた。
いや、こんなに飲んだら武器すら振れないだろ……。




