769話 まだまだ序の口
沈黙だった観客は勝ちがわかると、カイセイ賭けた者は熱狂して歓声が沸く。
「「「ゴンザレス! ゴンザレス! ゴンザレス!」」」
一方、傭兵に賭けた者のほとんどが怒る気力がなく、頭を抱えて現実を受け止められない状態である。
「すごい……ゴンザレスさん……すごすぎだろ! 魔法も使えるなら早く言ってくれよ! これは絶対に勝てる! すごいぞ!」
賭けに勝ったロベントスは興奮してあまり語彙力がなく喜んでいた。
「す、素晴らしいですわ! 剣と魔法を駆使して、最強傭兵を軽々と倒すのは圧巻です! もうわたくしは疑いません、ゴンザレスさんを信じますわ!」
「まだまだ序の口ですこと……。今の闘いは及第点くらいです……」
「あれだけの力量をして辛口評価ですわ!?」
「ワタクシを楽しませてくれなかったからです……。ですが、下等生物の悔しんでいる姿は最高ですこと……」
クーランドのほうを振り向くと――歯ぎしりしながら周りを歩いて落ち着きがない様子だった。
アイツにとって計算外のことが起きて混乱している。
まあ、次の試合で卑怯な手口を使おうが、カイセイには通用しない。
「それでは2時間後に第二試合を開始します。皆様急いで払い戻しのほうを――」
「いいや、明日にさせてもらう!」
少し低めの女声で司会の邪魔をして現れたのは――金髪のスーパーロングで褐色肌の筋肉質、軽装で露出が多めの大柄の女性だ。
「ハーティさん! 勝手に決めないでください!」
「誰ですのこの女性は……?」
「知らないですの? デンドフルの娘――ハーティですわ。最近、デンドフルがお亡くなりになり、父親に代わって団長をやっているのですよ」
まさか団長の娘が仕切っているのか。その言いようだと次の試合の相手か。
「決まっているじゃないか。全力のこいつと闘いたいのさ。一瞬で終わったが、魔力多く使っているのがわかる。領主様には悪いがこいつ――ゴンザレスを休ませる」
何か企んでいると思ったがそうではないようだ。ただの戦闘狂でした。
「なら今から始めてもいいぞ。気遣いは無用だ」
「あたいが困る。今の決闘はあたいたちが望んでるやり方ではない。領主様の命令とはいえ、卑怯なやり方をしてすまない。だから続けてやるは不公平だ。お前たち、いつまで倒れている? ゴンザレスに謝れ」
「「「すまねぇ……」」」
傭兵たちはカイセイに頭を下げた。
輩集団かと思ったが、礼儀はしっかりしている。
「別に気にしていない。わかった、お前たちが気が済むなら、明日決闘だ」
「感謝する。これで正々堂々と決闘できる」
「まったまった! 2人とも勝手に決めるな! クーランド様が――なんだ、お前、まだお取り込み中――なんだって!? えぇー、ただいま変更しまして――第二試合目は明日の昼になりました。皆様に大変深くお詫びします。それではまた明日――」
司会は観客に文句言われる前に逃げるように去っていった。
まさか変更が通るとは、クーランドは何か企んでいるようだ。
3階の特別席を見るが、すでにいなかった。
ヒロヤとヨイカ、オーストロ夫妻の姿もなかった。
「なんで明日になるの……。もうすぐで会えると思ったのに……」
「なんですの……、話が違うじゃありませんの……」
エミカとサリチーヌは落ち込んで言う。無理もない。本当なら今日助けるはずだったのに思わぬ延期になるのは予想できない。
ある意味クーランドは助かったような気がする。
2人には悪いが文句を言っても変わらない。明日に持ち越しだ。
もうここには用がないからカイセイと合流して宿屋に戻る。
…………カイセイと合流したのはいいが……なんでデンドルフ傭兵団らが一緒についてきている……?




