762話 この件が終わるまで
ベネッタは俺たちが帰るまで引き続き、宿の仕事をする。
それはいいが、入口前には帝国軍の奴らが仁王立ちして逃げられないように監視する。
予想していたことで問題はないが、別の問題が発生した――べネッタ令状を出されたから、すでに奴隷と見なされて自由に行動できなくなり外出は禁止される。
早く俺の領地に行かせて安心させたいところだが、数時間ごとに軍の奴らが入ってきて確認してくる。
だからすぐに行かせることはできない。
悪いが、この件が終わるまで我慢してもらう。
心残りはあるか聞くと――。
「家族はいないからお別れの挨拶はしなくて大丈夫だけど、親友のキャスリーとお別れの挨拶はしたいの……。ロベントスに言ってキャスリーに来てもらうしかないわ」
親友に最後に会いたいのは当然だ。
この期間中にロベントスに言えば、来てくれるだろう。
「べネッタ、奴隷になったのは本当なのか!?」
噂をすればロベントスが慌てて入ってきた。
やはり、すぐに情報が入ったか。
「ええそうよ。お願いがあるんだけど、あのバカ宿主を見つけてくれない?」
「むりむりむり! 俺が見つけても、説得できるわけないだろ!?」
「それもそうね。あなたは無関係だもんね」
「そんなこと言うなよ……、なんでヌルイヌさんが暴挙に……」
「私が知りたいわよ……。でも知っている貴族で買い取ってくれるは、まだマシだけどね」
「それはよかった……。変なところに行かないのは安心だな」
「何が安心よ。よくないに決まっているでしょ。それで、キャスリーにお別れの挨拶をしたいの。私はもうここから出られないから、キャスリーを呼んできてほしいの」
「姉ちゃんか……」
ロベントスは急に黙り込む。
不都合でもあるのか?
「また具合が悪くなったの?」
「そうなんだよー。また悪くなって家で寝込んでいるのさ。体調が良くなった来させるように伝えるからさ。待ってくれないか?」
また再発したのは仕方ない。
「そう、わかったわ。よろしくね」
「ああ……、じゃあ俺はこれで、姉ちゃんの看病しないと――」
そう言ってロベントスは出ていった。
行ったり来たりで大変だな。
まあ、これも仕事のうちか。
「何かワタクシたちに隠していますわね……」
「隠しても俺たちに言うほどでもないと思うが」
「そうでしょうか……? まあ、ワタクシには関係ないことですので……深く考える必要ではないですね……」
メアもそこまで気になることでもなさそうだ。
外野の俺たちが出しゃばる必要はない。
だが、決闘当日までロベントスは姿を見せなかった。




