759話 大変なこと?
「夕食の時間ですこと……。お知らせは食べた後にしてください……」
「えっ、でも――」
「悪い知らせの後に食べるなんて、食欲が減退しますこと……。ご一緒にどうです?」
俺たちは悪い知らせでも全然問題ないが、サリチーヌとメリアルはありそうだ。
「わかった……。それにしてもいい匂いだな……」
慌てていたロベントスでもカレーの匂いにやられたな。
俺たちは近くのテーブルで囲みカレーと作り置きしたパンを出して食べる。
カレーを初めて食べるメンバーは口に含むと、瞳孔が開いて無言で次々と食べ続ける。
やはりカレーは正義でした。
「これが傭兵食とは……。こんな贅沢な物を食べているのですか!?」
「はい……週に1回は必ず食べますよ……」
「なんという物を食べているのでしょう……。なるほど……、わかりましたわ。こんなにも美味しい食事を提供すれば、傭兵の方のやる気が上がるということですわね」
まあ、美味しいものを食べてやる気になるのは、強ち間違っていないけど。
「フフフ……ご想像にお任せします……」
メアは説明が面倒くさくなったのか俺と同じことを言う。
「それにしても、モリオンさんは残念ですわ。せっかく美味しい料理を作ってもらっているのに、食欲が湧かずに部屋にこもっているなんて、もったいないですわ」
【人化】できないモリオンの食事シーンは見せられないから、理由をつくって待機させている。
もちろん、そのあとに持って行く。
食事を済ませ、慌てていたロベントスは満足したのか落ち着いている。
「それで、大変なことになったのはどういうことだ?」
「それが……、今回の条件が決まったんだけど……、ゴンザレスさんに一方的に不利な条件なんだ……」
「それだけのことですか……? 聞いただけ損でした……」
「まだ何も言っていないのに決めないでくれ!? この条件でもか――試合は3試合する話で、ゴンザレスさんは3試合全部勝たないといけない! 相手はまだ決まっていないが、絶対に強者を用意するはずだ!」
なんだ、それだけか。別に大した問題ではない。
「本当にそれだけで不利とは笑ってしまいます……。むしろ、ゴンザレスにとって楽勝ですこと……」
「ラグナロク嬢が試合をしないからそんなことが言える! ゴンザレスさんも何か言ってくれ!」
「なんだ、100試合するわけじゃないのか。それなら楽勝だ」
「体力勝負じゃない!? 相手はかなり強敵だ! あれを見ただろ――イングルプ少佐の強さを! 絶対に少佐と対戦するのは確定してある! それで余裕を――」
カイセイは膨大な魔力を出すと、慌てているロベントスは黙ってしまう。
【魔力感知】はできるようだ。
「これで俺が余裕だとわかるだろ?」
「こ、この魔力はなんだ……。今までで見たこともない量だ……」
「フフフフフ……これでもゴンザレスの魔力は半分しか出していません……」
「あれで半分!? これならどんな強者でも普通に勝つぞ……」
メアの言う通りカイセイは半分しか出していなかった。
というかここまでネタバレしていいのか?
まあ、どんな反則を使ってもカイセイは勝つけどな。
「す、すごいですわ……。一瞬で、宝石が日差しに当てられ、輝きを放つくらいの眩しさですわ……。いったいどれだけの道を乗り越えてきたのでしょう……」
だてに勇者をやってきたわけじゃないしな。これでカイセイの強さもわかったはずだ。
「疑って申し訳ない……。言いたいことはそれでけだ。俺はこれで――」
「待ってくれ――これは姉の分だ。食べさせてやってくれ」
俺はカレーを容器に入れて、ロベントスに渡した。
「ありがとう。ゼロ大将。姉ちゃん絶対に喜ぶよ。俺はこれで――」
そうは言っているが、浮かない顔をして去っていく。
また体調でも崩したのか?
「ちょっと待ちなさいロベントス――キャスリーの体調は大丈夫なの? 元気なら今度あなたのお家に行くわよ! って聞いているの!?」
ベネッタは大声で言うが、ロベントは無視して姿が見えなくなった。
「あきれた。絶対にキャスリーに会いに行くんだから」
何かと怪しいが、知り合いが行くのだったら大丈夫か。
まだ詳しいことは聞いていないが、さほど問題ではない。
あとはゆっくりと決闘当日まで待つとしよう。




