758話 終わっても良い関係
大体は把握してやることはがなくなった。
この機会に周りの散策でもしようと言いたいところだが――。
「今日は宿に戻りましょう……。ジロジロ見られるのも疲れました……」
メアはそうは言うが、メリアルを気を遣って宿に戻る。
まあ、サリチーヌたちが迂闊に散策することはできないのもあるか。
「ナイトメアさん、ありがとうございます」
「フフフ……お礼を言われるほどではありません……」
サリチーヌの感謝にメアはとぼけるが、内心は嬉しいとは思う。
何気ない気遣いに気づいてくれるのは嬉しいと思う。
宿に着くと、ロベントスは監視の必要はなくなりお別れをする。
ベネッタに何か言われるのが嫌でもあるしな。
中に入ると――カウンター前のイスで小太りの中年おっさんが頭を抱えているが……。
「フフフフフ……オーナー……、この様子ですと、賭けに負けましたわね……」
オーナーもギャンブルにハマっているのかよ……。
まさか経営そっちのけでギャンブルか……。
「おかえりなさい。ほら、ヌルイヌさん。ラグナロク嬢が来たから、元気出して」
ベネッタが俺たちに気づくと、顔を上げて――メアに駆け寄って膝をついて手を差し伸べる。
「おお……女帝様……こんな愚か者に救いをください……」
かなり切羽詰まっている様子で……。
やはり、メアに頼っていたか……。
「フフフフフ……、残念ですが……ワタクシは決闘を申し込んでいますので、賭けることはできません……。助言もご法度なので、ご理解いただけますこと……?」
「なぁ……」
オーナーは口を開けたまま、真っ青になり固まったままだ。
まあ、助言も違反になるし、当然だよな。
「そんな掟があったなんて知らなかった。ヌルイヌさん残念だけどまた今度ね」
その今度はないけどな。しかし、ベネッタが知らないのは意外だ。
まったくギャンブルに興味はないみたいだ。
俺たちはオーナーをそのままにして部屋で休む。
――夕方になり、1階に下りて厨房を借りる。
泊まっているのは俺たちだけで、厨房が機能してない状態でありがたく使わせてもらう。
まあ、裏通りのところに立てるのは繁盛は難しいと思う。
というかここの宿屋は素泊まりだけだとのこと。
ベネッタ曰く、オーナーが賭けに勝って勢いで建てたということらしい。
ここは税金もかからないから、赤字経営はないという。
だが、ギャンブルは負け続きで意味がないという。
そのオーナーはまた闘技場に行って、懲りずに賭けているようです。
今までは作り置きした料理で済ませていたが、大食組の勢いが凄まじく、作らないと保たなくなった。とはいっても、簡単に作れるカレーだけどな。
俺とメアとルチルで作ろうと思ったら、コトハとナノミとエミカが手伝うことに。
そして、興味津々なのかサリチーヌとメリアルが厨房に入って見学に。
「やはり手強の良さ……、傭兵出身で間違いありませんわ……」
なんで料理で傭兵と判断する……。
それはそれでいいけどさ。
「お嬢様、知らない食材で作っているので、再現は難しいかと……」
この世界にない食材をほとんど使っているから再現は不可能だな。
代用できないことはないが。
「そうですわね……。見たことない食材を扱うのは無理ですわ……。いい匂いなのに残念です……」
「フフフ……ワタクシたちが作る傭兵食なので特殊です……。ご理解ください……」
メア、変なことを言うのではありません……。
「いいえ、諦めませんわ! わたくしは決めました。この件が終わったら、あなた方と良い関係を築きたいと思います! あの愚か者がまた難癖つけてくるとおもいますので、あなた方の傭兵の派遣をお願いします。そして、このスープの秘密を教えてもらいますわよ!」
そうきたか……、確かにこの件が終わっても絶対にクーランドが仕掛けてくるはずだ。
まあ、終わってからじゃないと状況がわからない。終わってから考えるとするか。
とろみも付いてきたことだしそろそろ出来上が――。
「ら、ラグナロク嬢、た、大変だ!」
ロベントスが慌てて中に入ってきた。
この慌てようは、絶対面倒事であると確信しました。




