756話 闘技場
案の定、ほんとんどの人が俺たち――メアを見る。
「フフフ……そんなに見られると照れちゃいますこと……」
まったくの嘘ですね。不気味な笑みを浮かべて高揚しているくせに……。周りは俺たちが歩くたび避け始める。
この様子だと、気に食わない奴は【威圧】でわからせたのだろう。
「ファントム」
「了解した」
ファントムと別れ、俺たちは階段を上り、観客席に向かう。
今回はあくまで偵察で、ファントムに立入禁止――ヒロヤとヨイカが捕らわれている場所は地下のほうに向かわせる。監視用の魔道具に【擬装】でごまかせるからか確かめるためだ。
もし、侵入できるのなら奥まで進むように頼んだ。
円形――周りを囲んでいる観客席に移動すると、日差しを受けながら、歓声と怒号が混じり合って大勢の客は席を立って熱くなっていた。
見ただけで数万人くらいはいる。
そして中心には、石で固められた四方の床――闘い場が設置してある。その周囲に、長方形の赤い魔石――魔道具が床に刺さっている。
どうやら魔道具は床に魔力をコーティングさせ、強度を上げているようだ。
対戦しているのは――笑いながら斧を振り回しているイングルプと短剣を持って逃げ回っている挑戦者の男だ。
メアの言う通りイングルプが戦っている。
「ハハハハハ! ちょこまかと逃げるなよ!」
「――――グアァァァ!?」
イングルプは斧を投げ捨て、挑戦者に一瞬で近づき、腹を殴り吹っ飛ばしていく。
挑戦者は身動きが取れずに試合は終わった。
「金返せ!」
挑戦者に賭けたのが多いのか、怒号が大きくなり鳴り止む気配などない。
中には落胆したり、この世の終わりみたいな顔をした奴などいる。
「イングルプの試合なんて賭けの対象にならないだろう」
「そんなことはありません……。挑戦者の倍率は100です……、数字に目が眩み、挑戦者に賭ける者も多いです……。ちなみにイングルプは1.1の倍率です……」
完全に運営――クーランドの策にやられている……。
普通なら罠だと思うが、一攫千金を狙って倍率が高いほうを選ぶに決まっている。
そして――。
「「「奴隷、奴隷、奴隷」」」
挑戦者に奴隷コールが鳴り響く。これだと敗者――挑戦者のせいにできて運営側に文句など言う奴はいない。
簡単に金儲けできるってわけだ。
伸びている挑戦者は帝国軍に抱えられて中に入っていった。
「本当に奴隷になるわけではないよな?」
「あの挑戦者は奴隷行きだ。イングルプ少佐に負けるということは奴隷になる意味でもある」
ロベントスは淡々と言う。挑戦者もリスクがありすぎだろう……。
それほど、懸賞がほしいのか?
「ヒロヤとヨイカはいないのね……」
エミカは3階あるにガラス越しで見える室内――特別席を見て落ち込んだ。
2人の様子を確認したかったのは当然だ。
だが、メアが2人を賭けると宣言したからおそらく、表には姿を現さない。
クーランドも当日まで姿を見せないはずだ。
しかし、終わったのに観客は帰ろうともしない。
「まだ、あるのか?」
「今日の予定だと、イングルプ少佐だけで5戦やるつもりだ」
5戦って……、随分予約で埋まってますね……。
挑戦者も懸賞のために燃えているってことか。
そうなると、まだまだ終わりそうにないな。
よかったなルチル、いっぱい試合を見れそうだ。
そのルチルは、喜ばずに真剣に見て――。
「飽きた!」
早すぎだろ!?




