753話 ほどほどに
「それで、どうしてロベントスがいるの? もう仕事が終わったの?」
「俺はラグナロク嬢たちに案内をしているのさ。というか、ラグナロク嬢と関わっているなら言ってくれよ」
「大事なお客様を周りに教えるわけないでしょ。そっちこそ、ラグナロク嬢の案内と言っておこぼれをもらっているわね?」
「そうさ、おかげさまで賭けに全勝して今は小金持ちさ!」
「あきれた、ほどほどにしなさいよ。あなたのお姉さん――キャスリーは賭け事に反対しているのにやめなさいよ」
「これで最後にするさ。もうこんな時間か。ラグナロク嬢、申し訳ないが今日はここまでだ。明日の朝ここに来るからな。じゃあ、あとは任せたベネッタ――」
「ちょっと待ちなさい!」
ロベントスは慌てて宿屋から出ていった。
どうやらいろいろと言われるから逃げたか。
まあ、今日はやることがないし、問題はない。というか、監視しないのは好都合である。
「おや、姉に言われているのに賭けをするなんて悪い子ですこと……」
「本当にそうよ。体調を崩して家で寝込んでいるから、目を盗んで賭けをしているなんて最低よ。あの姉弟は早くから両親を亡くしてキャスリーが親代わりでロベントスを育てているんだから、言うことくらい聞かないと……」
それはダメだろう……。大事に育てられたなら恩を仇で返なよ……。
それほど中毒になっていることか……。
「まあ、姉をほったらかしにして賭けなんて最低ですわね。恩知らずですこと……」
「でも、賭け以外はしっかりしているわ。この前、キャスリーの身体が悪化したとき仕事を休んで看病をしていたわ。姉を大事にはしているよ。多分だけど、精がつくものを食べさせたいから、賭けをしていると思うわ。十分すぎるほど稼いでるならやめさせないと――ここでやめさせなければ大変なことになるわ」
大事な姉のために賭けをしているってわけか。なんか複雑だ。
「そうでしたか……。ですが最後って言っているのは本当ですの……?」
「キャスリーが体調は順調に回復していると聞いているわ。バレる前に撤退するつもりにね……本当にあきれた……。次もそういうことが起きたら絶対に言ってやるわ……」
姉を助けてやっているなら別に口出しするつもりはない。
ただ、暴落だけはやめてほしいが。
話はここまでにして、ベネッタは俺たちを7階――最上階にあるスイートルームにそれそで案内をしてくれた。ここでひと休みと言いたいところだが、俺とメアが泊まる部屋でみんな集合する。
「さて、お集まりになられたので……、確認をします……。サリチーヌさん……、留守番している方たちは本当に大丈夫ですか……?」
「愚か者が何かしてくると思い、別荘に移動していますが、大丈夫とは言い切れませんわ……。情報が知られているなら、違う場所に逃げなければいけません。その前に、このことをリオラに伝えないといけません……。明日、イエンクを向かわせなければいけません……」
やはり、違う場所に移動していたか。
「そうですか……、では、ワタクシの護衛を複数派遣しますのでご安心ください……。絶対にあなた方をお守りしますので……」
「ほ、本当によろしいのでしょうか!? あ、ありがとうございます!」
複数派遣って……俺の領地いる誰かを派遣するのか……。
「そういうことなら私が行くよ。たとえ、大勢で襲ってきても絶対に守るよ」
ロードが手を上げてくれるなら安心だ。
まあ、戦闘狂のお二方の心配はいらないみたいだし、ここにいなくてもいいと思ったか。
「なんと勇ましい女性騎士でしょうか。ところで、ほかの方を派遣するのは嬉しいのですが、どのくらいで来られるのでしょうか……? これからナイトメアさんも、お戻りになって伝えるのですか?」
「ご安心ください……。明日には一緒に出発できます……。なぜなら――ほかの護衛はディングラの外で待機しています……。念には念を入れてお父様は、ほか護衛をつけさせてくれています……」
そういう設定できたか……。
まあ、妥当な設定ではあるけど、サリチーヌは引いています。
「あ、あの……ナイトメアさん……、ほかにも護衛って……あなたは本当に普通の貴族なのですか……?」
「はい……一般的な貴族でございます……。それ以上でもそれ以下でもありません……」
もう一般だけでは無理があります。
そうなると、誰を連れてくるか考えないと――。




