752話 使用人に報告
みんなと合流し、メアが説明をすると、メリアルとイエンクは顔が真っ青になり、エミカはホッひと安心していた。
「もしかして俺たちは……ゴンザレスさんに命運がかかっていることになるのですか……?」
「フフフフフ……そうですこと……。ワタクシたちはあの下等生物から逃れることはありません……」
メアは不気味な顔してイエンクに言う。不吉なことを言って煽るのではありません……。
「お、お嬢様……、そんなことをしてよろしかったでしょうか……?」
メリアルも自分が勝手に賭けの対象になって不安になるよな。
「わたくしはナイトメアさんとゴンザレスさんを信じていますわ。これはわたくし自身の選択でナイトメアさんを恨まないでほしいですわ。責任はわたくしが取ります。もし、負けるようなことがあれば、皆と一緒に逃げてくださいまし。リオラとなら一緒に遠くへ逃げられるはずですわ」
「そ、そんなことしてしまえば、リオラお嬢様は悲しんでしまいます!?」
「あの子はまだ成人にはなっていなくとも、立派な淑女ですわ。わたくしが何かあっても察してくれますわ。もう家を出る前からリオラには言っていますので、覚悟を決めていますわ」
妹がいるのか。まあ、成人になっていない子を一緒に連れていけるわけがない。
というか、クーランドに関わらせたくないだろう。
「お取り込み中、失礼ですが……。サリチーヌさん、妹がいたのですか……?」
「はい、孤児の子と一緒にお家で留守をしていますわ。料理や家事はわたくしよりできるので、その点は心配ありませんわ」
そう言いながら、ロベントス見る。
なるほど、今言ったのは嘘のようだ。
さすがにロベントスはこっちよりではあるが、クーランドに話すときに、言ってしまう可能性がある。
「フフフフフ……そうですか……。けど、ゴンザレスが負けるようなことはしません……。絶対に勝ちますので期待してください……」
「もちろんですわ。先ほど誤解を招くような発言をしてしまい、申し訳ありません。決してあなた方を疑っていませんわ」
「フフフ……わかりました……。今日はお疲れのようですので……宿屋に行きましょうか……。ご予約していますので……サリチーヌさんたちもご一緒に……」
宿屋まで予約しているのか。
「いいのですか!? では、お言葉に甘えますわ」
「えっ、闘技場に行かないの? アタシは観戦したい!」
「クリス……今日は我慢しなさい……。まだやることがありますので……。明日からにしなさい……」
「ブ〜」
ルチルは顔を膨らまして拗ねた。
まあ、いろいろとあって整理しないといけないしな。今日は下手な行動はできない。
ルチルは言うことを聞き、ここから近いという宿屋に徒歩で行く。
住宅街の裏通り――2人分くらいの路地を通ると、縦長の赤レンガで造られた建物に止まった。
「フフフフフ……ここです……」
「ここって……、ベネッタが働いている宿屋じゃないか……。もっと良いところがあるのに、ここなのか……」
「あら知っているのですか……? 普通の人は避けますが、ここは内装もとても良く気に入っています……」
なんだロベントスの知り合いが働いている場所か。
鉄でできた扉を開けると――床は石のタイルで敷き詰められ、壁は白い木板が張られているカウンターだ。
「いらっしゃい――ラグナロク嬢じゃないか! また来るとか言っていたけど、こんな大勢で来るのは聞いていないよ!」
出てきたのはエプロン姿の長身でモデル体形をした赤髪ポニーテールの若い女性だ。
「フフフフフ……予定より……多くなりました……迷惑でしたか……?」
「喜んで歓迎します! 喜んでおもてなししますので、帰らないでください!」
「フフフフフ……ではこれで全員分――1週間以上お願いします……。1枚はあなたの懐に収めてください……」
そう言って大金貨2枚を渡した。
「だ、大金貨!? あ、ありがとうございますラグナロク嬢! あなたは女神ソシア様ようなお方です!」
喜びのあまりベネッタはメアを拝む。宿屋の相場はわからないが、大金貨を渡せば解決するか。その1枚はチップ感覚に渡すのはどうかしている……。オーナーはいないみたいだが、バレたら面倒事になりそうです。
「ナイトメアさん、そこまでしなくとも――」
「ワタクシが勝手に選んだので、そのお詫びです」
メアの計画内だから別の宿屋に行って監視できないのは困るしな。
まあ、そこまでサリチーヌたちは謹んでいるとは思う。




