747話 偵察の信頼
「その前に……、領主に会わせてもらえないでしょうか……? この子――オーストロ家のご令嬢が、お話をしたいと……」
「オーストロ家……その子があのご令嬢か!? これは大変なことになった……。悪いことは言わない、領主に会わないほうがいい。普通に帰れるとは思えない」
兵士の耳まで話が入っているのか。兵士が止めてくれるほど、かなり深刻みたいだ。
「それは困ります……。このワタクシも……話し合いをしたいのです……」
「ラ、ラグナロク嬢が領主とお話に!? もしや……革命が起きるかもしれない……。わかった、俺が案内する。その代わり、賭けるときは絶対に誘ってくれよ!」
革命って……メアってそこまで影響があるのか……? この短期間でいったい何をした……?
まあ、領主に会えるならなんでもいいか。
「フフフフフ……わかりました……。絶対に約束は守りますこと……」
「よっしゃ! これで俺はこことおさらばできる!」
兵士はガッツポーズをして大喜びだ。普通なら味をしめてどんどん賭けてここに一生居座ると思うが、この兵士、裏事情を知っているようだな。
「悪いが、この馬車だと大きすぎて、領主の屋敷まで通れない。徒歩だと1時間以上はかかるから、俺がほかの馬車を用意する。ただ、大人数は入れないから、行くやつを決めてくれ」
そこまでしてくれるのはありがたい。
少人数で行くのなら、俺も同行したほうがいいが、今回は監視用の魔道具のせいで【隠密】が使えない。
今のところ軍の連中にはあっていないが、変装もしないで同行するのはさすがにマズい。
報告を待ったほうがいい。
「ということで……、ゼロ様……こちらを……」
メアは無限収納から舞踏会で着用する黒い仮面を俺に渡す。
これを付けて同行しろと……。
「これ付けて行くと怪しまれるぞ……」
「こちらの婚約者はディングラは初めてか? 仮面を付けて歩くのはここでは普通のことだ。お偉いさんが賭けで負けたとき恥を晒したら、笑われ者になるだろ? 仮面を付ければ、どこのお偉いさんなのか、わからなく尊厳を守ることができる。だから怪しまれなくて平気さ」
意外にプライバシーは守るのですね……。
そういうことなら仮面を付ける。
「フフフフフ……お似合いですこと……」
メアは妖艶な笑みでうっとりしている。
俺には、慣れなくて違和感がある……。
いくら仮面を付けても軍の奴らにはわかる奴にはわかる。
多少はバレなく済む程度で、できるだけ近くに行くのは避ける。
「アイテムボックス……ラグナロク様……あなたはいったい……?」
「フフフ……ちょっとすごい貴族だけなことです……」
いろいろと見せれたらサリチーヌも驚くのは当然だ。
「ちょっとだけではないぞ! 俺はラグナロク嬢についていけば絶対にいいことがある。俺の勘はそう言っている……」
この兵士、メアに手玉に取られていますね。
それもそうか、勝ち情報を教えれば、メア英雄そのものだよな。
うまく利用していることで……。
「フフフ……では、サリチーヌさん、申し訳ございませんが、使用人の方は待機させてください……。その代わりに約束通り護衛をついてもらいます――ゴンザレス、あなたが来なさい……」
「えっ……、俺?」
「あなたに決まっていますこと、ゴンザレス……ほかに誰がいるのです……」
カイセイを指名するのか? だったらガタイのよい、セイクリッドがいいと思うが。
というか、カイセイを見て急に偽名で呼ぶのは、無茶ぶりをしますね。
ほかに指名をすることなく、馬車――馬を預けるため厩舎のとこで待機させることにした。
俺たちは兵士――水色短髪の青年ロベントスが用意した馬車に入り、領主がいる屋敷に行く。




