743話 作戦とは……
森を抜けると――丘の上だった。そして遠くには壁で囲まれた大都市――ディングラが見えた。
遠くでも歓声が聞こえて大盛り上がりだ。
「あそこにヒロヤとヨイカがいるのか……燃えてきた……」
カイセイは身体を震えさせながら言う。
武者震いしてやる気なのはいいが、全然まだだぞ……。
メアの話しでは次のエントリーは未定だと、聞いていなかったのか……?
「はぁ……、ワタクシの話しを聞いていませんでしたか……? その燃えた闘志を鎮火してくれませんか……? 暑苦しい……」
面白がると思ったが、嫌なようです。
まあ、話しを聞いていないカイセイが悪いが。
「ハハハハハ! いいぞ! だがな、燃やしている場合ではないぞ。まだ試合は始まってはいない。今は心に留めておけ」
意外にセイクリッドはカイセイを後押しするような発言はしなかった。
戦闘狂だからかなり闘技場はテンションが上っていると思ったが、そうでもないようだ。
「そういえば、闘技場に参加したいとか言わないのか? かなり戦闘狂の血が騒ぐと思うが」
「何を言っている。我は強者しか求めん。話しを聞くに、大した奴など参加しないだろう。今回は観戦してカイセイに譲るとする」
まあ、セイクリッド程度なら闘技場の連中なんて雑魚だろうな。
イングルプ相手でも、ひと振りで終わる。
「本気で言っているのか? オレは参加したくてたまらないぞ」
モリオンは誰であろうと関係ないようだ。
「悪いが、我慢をしてくれ」
「わかっている。領主殿の優先することがあるなら今回は我慢する」
意外にそこは抑えてくれるようです。
「よかった……2人が暴走しなくて……」
ロードはホッとひと安心のようだ。
お二方が心配でついてくるよな。
「それで、私はいつ姿を消せばいい?」
「フフフフフ……そのままでいいですよ……」
おいおい、頼んだファントムに【擬装】使わなくていいのかよ……。
メアが仕切るとか言っていたが本当に大丈夫なのか……。
街道に入ると、無数の馬車がディングラに向かっていた。
大都市とはいえ、こんなにも馬車が多いとは、よほど大盛況のようだ。
まだまだ先だが、門前には大行列が起きていた。
これ……入るのに時間がかかりそうだな……。その前に検問に引っかかりそうではある……。
並ばないと始まらないし、あの行列に並ぶしかないか――。
すると、通過した大きな馬車が俺たちの前に止まった。なんか面倒なことが起こりそうだな……。
馬車の中から出てきたのは、赤い巻き髪のロングで黒のドレスを着た少女と、紫色ショートの小柄な子――メイド服を着た少女だ。
こう見ると、エミカと歳が変わらない2人だ。
「あなた方、決闘都市に行くのですか?」
「はい……そうですが……」
「護衛をこんなにお連れしてどうしたのです!? 検問でかなり言われますわ! 理由があるのなら、わたくしの馬車に乗って!」
ん? 怪しくて通報されると思ったが、逆に匿ってくれるのか?
「気遣いありがとうございます……。ですが……ワタクシたちは大丈夫です……お気になさらず……」
なぜそこを断る……。この令嬢と一緒に入れば引っかかることはないぞ。
『メア、匿ってくれるなら、馬車に入ったほうがいいぞ』
『いえ……、ワタクシには不要なことです……。しっかり作戦を考えているので問題ありません……。この子が一緒にいるとややこしくなるので……』
『そのプランが怖い……。確実に入るなら令嬢と一緒のほうがいいぞ……』
『そうですか……? ワタクシをもっと信用してください……。ですが……、令嬢とメイド、それに御者――執事しかいないのはおかしいですね……』
確かにそうだ。大きな馬車なのに、ほかに乗ってなく、令嬢と使用人だけなのもおかしい。あちらもかなりの理由があるようだ。
「そうは言いましても、このわたくしといれば、怪しまれずに検問を通ることができますわ!」
メアがお断りを入れたが、相手も引かない。
まあ、あっち側も俺たちがいれば都合がいいのかもしれない。
鎧を着たカイセイに、結晶騎士たちがいればあっち側の護衛にもなる。
たまたま俺たちに目が入ったのかもしれない。
『フフフフフ…、度胸がありますこと……。では違う作戦でいきましょうか……』
そのプランとはいったい……。
「そうですか……、ではお言葉に甘えて乗りましょうか……。理由も聞きたいですし……」
「ええ! さぁ、乗って乗って!」
「ど、どうぞお入りください!」
令嬢は顔が明るくなり、喜びながら乗り、メイドは慌ただしく馬車の中に案内をしてくれる。




