739話 偵察が終わるまで⑳
領外でケイトの稽古をつけているウルマに相談したところ――。
「ふむ……悪いが稽古をつけられない」
ウルマはクエスの見つめながら言う。
断るとか珍しいな。
「何か問題でもあるのか?」
「少し幼いところだ。あともう少し筋肉をつけさせないといけない。【体術】を覚えているとはいえ、私と稽古するからにはもう少し筋肉がないと厳しい。まずは身体づくりをさせないといけない。そこは専門ではないから私以外に頼んだほうがいい。それに、休日だけで私を頼っても、成長なんて夢のまた夢だ。優先するのは学校を卒業してからだ。そのあとなら受け入れよう」
ウルマの言ってることはド正論である。
けど、クエスを甘く見てはいけない。
「そう思うが、学校が休みのときにオルリールさん――ギルドで個人稽古しているぞ。なんならケイトに合わせて普通に稽古できる」
「それなら休日に私のところに来なくとも、冒険者にお願いすればいいだろう?」
「それが……過保護のヤーワレさんの耳に入って、冒険者との稽古は禁止なっている……。だから個人稽古のみだ。冒険者ではないウルマしか頼りにできない」
「厳しくても絶対についていきます! どうか俺に稽古をつけさせてください!」
クエスは頭を深く下げた。
すると、ウルマは深くため息をつく。
「そこまで言うのなら、この大木を素手で倒してからだ。倒せればつけてやってもいいぞ」
ウルマが全長太い20mはある大木に指を差す。
一般の冒険者でも無理な条件だ。
「もうおばあちゃんたら、素直にまだ幼いから危ないと言えばいいのに」
ララアは呆れて言う。
まあ、ウルマは不器用なところがあるから仕方ない。
無理難題を押しつければ、諦めてくれると思っているかもしれない。
「わかりました。やってみせます!」
「ほ、本気でやるのか!?」
予想外の返答でウルマは慌てだす。
このくらいならクエスにとって問題ないはずだ。
クエスは大木に近づきながら膨大な魔力を出す。
「こ、こんなに魔力があるのか……」
当然だ、俺が教師をやっていたときに【魔力制御】をしっかり覚えさせていたからな。あとはクエスの努力の賜物だ。
その魔力を拳に集中させ――。
「――――絶拳!」
小さな拳で大木を殴ると、いとも簡単に折れて倒れていく。
クエスにとってはこのくらいは余裕だな。
ウルマとララア、休憩していたケイトは口を開けて驚きを隠せなかった。
「これでよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……、いいだろ……。ではケイトと一緒のやり方を教えるぞ……」
ここまでやったら、認めざるを得ないか。
「あ、ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」
「クエス、こんなことができるなら最初から言えよ」
「最後の切り札はとっておくに決まっているだろ。これからもよろしくなケイト」
これで、クエスはウルマの弟子入りとなった。
学校との両立は大変だが頑張れよ。
クエスには悪いが屋敷で休ませてもらう。
屋敷に入ると――。
「フフフフフ……ただいま戻りました……」
メアが満面な笑みで出迎えてきた。
この様子だとかなり収穫のようですな。




