735話 偵察が終わるまで⑯
落下したド変態信者は俺たちを見て驚く。やっと気づいたか。
「せ、洗脳者がなぜここに!? ふ、ふざけるな! いつも我々の邪魔をするつもりだ!?」
「それはこっちのセリフだ……。お前たち、帝王と組んでいることはわかっている。降参するなら今のうちだ」
「するわけないだろ!? 帝王様に女神ソシアに似た娘を献上してスール様の側室となる !」
またわけのわからないことを……。
なんだ、隠すことなく帝王と組んでいることを認めた。
「はぁ……、側室とか何を言ってんだか知らねーが、侯爵のバカ息子が帝王と組んでいるのであればお前たちにも容赦はしない」
ヴェンゲルさんは呆れるしかなかった。
私利私欲のためにリスクを冒してまでファルファを攫うのはもはや異常だ。
「そんなのはどうでもいい……2人の天使を返せ――――絶拳!」
「――――ぐえぇ!?」
ヤーワレさんは我慢できずに信者に近づき、拳に膨大な魔力を注ぎ込んで殴り、吹っ飛んでいく。いくら邪石を付けてもギルドマスタークラスの拳はひと溜まりもない。
「フフフフフ……アハハハハ! 効かんな、全然効かんぞ! さすが帝国で開発された聖石だ!」
しかし、高笑いしながらすぐに立ち上がった。
ん? 邪石の作用が早いぞ。弱いはずなのにすぐに作用されるのは変だ。
前のより改良されたのか?
アイツの相手をするわけではない。目的は2人の救出だ。
だが、馬車の中から信者次々出てきて、奴隷の首輪を付けられたファルファとチャムは意識がないまま抱えられて、殴られた信者の方に向かう。
「天使!? キサマら……本当に許さん――」
ヤーワレは2人の方へ追うが、信者たちが道を阻む。
「邪魔だ! 俺の天使を返せ!」
「「「――――ブウェ!?」」」
案の定、殴られて吹っ飛んでいくだけで、無意味だった。
2人奴は殴られた信者に合流するが、こんなことしても時間稼ぎにもならない。
「天使を返せ!」
「フン、そうはさせるか――」
信者は服の中から取り出したのはイングルプが飲んでいた聖水と同じ物を飲み始めた。
おい、アイツは自滅するつもりか?
飲み終わると、力が抜けたかのように空の瓶を落として虚ろな目をする。
そして服が破けて、身体がボコボコ膨張をし、姿が変わっていく。
嘘だろ……灰にならなく成功したのかよ……。
信者は鳥の翼が生えて――丸まった巨大な鳥へと変わった。
「――――クエェェェェ!」
発狂すると同時に翼を広げると、顔を見せると大きなくちばしにイカれた目をした鳥――どデカいペリカンの姿がだった。
「オれは王ノ側室になルのダ! ―――――クエェェェェ!」
ペリカンになった信者はファルファとチャムをくちばしにくわえて喉袋の中に入ってしまった。
マズい、飛んでしまったら面倒だ。腹の中に移動した邪石を魔法で壊すのは間に合うか――。
「大事な天使を返せ!」
「ハハハ、オまエにかまッテいル。ヒマはナい!」
信者は翼を羽ばたかせ、風を起こしてヤーワレの足を止めて高く飛んで行く。
あの距離ならまだ間に合う――。
「――――スパイラルランス!」
俺は風魔法――螺旋状に回る風の槍を放ち、信者の腹を目がけたが――。
「――――クエェェェェ!」
叫びながら口を大きく開けてそのまま丸飲みした。
なんの冗談だよ……魔法を丸飲みするとか、あり得ない……しかも無傷だぞ……。




