734話 偵察が終わるまで⑮
「て、天使を危ないところに連れて行けない!? クエス、みんなと一緒に待っていてくれ!」
ヤーワレさんは顔を真っ青にして慌てて言う。
「ヤーワレさんの言う通りだ。俺たちに任せて待ってくれ。絶対に助ける」
「みなさんの邪魔はしません! お願いです……一緒に連れて行ってください……」
この目で確かめたい気持ちがわかるが、相手は姑息なマネをする奴らだ。
邪魔をしないとは言っても、クエスが狙われる可能性もある。
「別に連れっててもいいんじゃね? まだ幼いが魔力はそれなりにある。自分の身を守れるくらいはあるぞ」
意外にヴェンゲルさんは反対しない。強さは問題ないってことか。
「何を言っているグランドマスター!? どんな理由があってもかわいい天使を連れて行くわけない! 虐待だ!」
「そうか? レイなんてこのくらいにときに強い魔物を普通に倒していたぞ」
「いや、俺と比べるのは困ります……」
「なんという畜生だ!? 子どもを戦場に向かわせるのと同じだ!」
「はぁ……、お前も少しは坊主を信じたらどうだ? そんなに俺の話が信用できないのなら俺も一緒に行く。坊主の面倒は俺が見る」
ヴェンゲルさんがそこまで言うのなら俺はいいか。
「そ、それでもダメだ。これ以上、天使を巻き込ませてはいけない!」
「過保護になるのはやめろ。坊主は覚悟を持って行くと言っている。それを無駄にするのは坊主の成長の妨げになる。一度だけワガママを聞いたらどうだ?」
「ぐぬぬぬ……」
ヤーワレさんは断固反対のようだ。
「アニキ、このまま揉める時間なんてありません。俺もついて行きやす。だから今回だけはクエスを尊重させてくせい」
「ぐぬぬぬ……わかった……、クエス……今回だけだぞ……」
「ありがとうございます!」
ヤーワレさんから折れたのは珍しい。まあ、本当に揉めている時間なんてないしな。
「ソウタ、精霊たちはどこに行っているかわかるか?」
「確認する――大きな川を橋で渡っている最中だ」
もうすぐで工房都市――エワイエンと騒動が起きたオンオルの分かれ道に向かってしまう。エワイエン方向に行ってしまったら空間魔法でも移動はできない。
「時間がありません! もう行きますよ――」
俺は急いで空間魔法でみんなを分かれ道のほうに移動させる――。
――移動すると、数kmくらいに馬車――邪石の反応とソウタの精霊たちが向かっているのがわかった。ちょうどいいタイミングだ。
「よくもかわいい天使2人を攫ったな……。覚悟しろよ……」
ヤーワレさんは気づいて膨大な魔力を出している。
怒る気持ちはわかりますが、敵に思いっきりバレますよ……。
遠くから3台の馬車が見えてきた――だが、俺たちは気づいているはずなのに止まらずに向かってくる。
ただバカなのか、それともかなりの自信があるかのどっちかだ。
まあ、前者だと思うけどな。
ファルファとチャムが乗っているのなら怪我なく止めるだけだ――。
「――――シャドウチェーン!」
俺は闇魔法で無数の影の鎖を地面から出して、向かってくる馬車を捕られて動けないように空中で縛りつける。
「――――のわぁぁぁぁ!?」
勢い余って馬車から、頭に邪石を付けた軽装のエルフが出てきて地面に落ちてきた。
見覚えると思ったら、ド変態信者じゃないか。
やはり、帝王側についていたか。だが、本拠地でもある帝都にはいなかったが、そこが疑問ではある。
まあ、捕まえて聞けばいいだけか。




