731話 偵察が終わるまで⑫
――翌日。
アルロさんはヨシマツにある指示をする。毎日山に登って足腰を鍛えろという。
まずは基礎づくりから入るのは基本中の基本だ。
とは言っているけど、最初は自分が休みたいからでもある。
ちょうど、領地から見える火山を見て思いついたかもしれない。
そうなると誰かがついて行かないといけないか。
そう思ったが、ノエリーエも一緒に行くみたいだ。
のんびりすることなく張り切っていた。
だが、ノエリーエはまだEランクに昇格したばかりでまだまだ新米冒険者だ。
監視とかつけないで、なかなか鬼畜なことをしますね……。
「その心配はいらね。ノエリーエはオーガの拳を素手で余裕で受け止めることができる。ロックバードの落とした岩も軽々と盾で防げるぞ」
そんなに強いのか!? オーガの拳って……完全にヘンズさんがやっていたことじゃないか……。というか、両方の血を受け継いでいるなら納得ができる。
たしかにザインさんが何も言わないのが不思議であった。
ノエリーエ……期待の新人ですな……。アルロさんに教わる必要ないと思うが……。
強いとはいえ、さすがにマズいからカイセイにお願いをする。
カイセイがいればヨシマツに魔力のコントロールのアドバイスもできるしな。
「兄ちゃんは心配性だな。夕飯前には戻ってくるからね!」
ヨシマツと一緒に夕飯前には戻ってくるのかは疑問ではあるが、そでまでに帰って来なかったら捜しに行くか。
昼過ぎになると、ジェリックから連絡がきた。後ろでヤーワレさんの泣いている声も……。
『レイの旦那、やっとアニキを説得できました! 3日後におねげぇします!』
『やめでぐでぇ――――!』
説得というより無理やりですな……。3日後ならクエスが学校が休みの日と重なる。
ちょうどいい、クエスも呼ぶとしよう。
そして夕日が落ちる前にノエリーエたちは戻ってきた。本当に夕食前には戻ってきくるとはな……。
だが、ヨシマツは疲れ果てて地面に倒れていた。
初日でここまでできるなら上出来だ。あとは早く戻ればアルロさんと本格的に特訓をするだろう。
しかし……ノエリーエは笑顔で戻ってくるとは、本当に新人冒険者なのかと思うくらい体力を持っている。
完全にフェンリと同じだな……。いや、フェンリよりすごい冒険者になる気がする。
もうミスリルカードでもいいんじゃないか?
「ハハハ! うちの娘は大したもんだろう?」
久しぶりに休んで高笑いして満足しているアルロさんと寄ってきた。
「こんなに強くなっているとは思いませんでした……」
「俺もだ。俺が依頼に行っている間にかなり努力していた。まあ、ほとんどヘンズが相手していたけどな」
「それは納得ですね……。これを言ってはあれですが……ヘンズさんが見ているのでしたら剣士向きではないですか? 性格的にも俊敏に動いて攻撃する剣士向きな気がします」
「レイもそう思うか。だが、俺が言ってもタンクをやると言って聞きやしない」
「アルロさんみたいになりたいからですか?」
「いや、そうではない。レイと組みたくてタンクになったらしいぞ」
はい? 俺? なんで? 一緒に依頼を受ける約束はしたが、なんでタンクになる必要がある?
「その理由はわかりますか?」
「それはレイが攻撃型の魔法使いだからだ。たまに俺がレイが無茶をしていると言ったらタンクをやると決めたようだ。将来、組んだら守れるようにと。けどまあ、遠い存在になってしまったけどな」
「それなら俺に合わさなくてもいいと思いますが」
「ノエリーエはそれでもまだ諦めてなかったぞ。一緒に冒険者をやる夢は叶わなかったが、お偉いさんになったレイの護衛になることを目標としているぞ」
えぇ……なんで俺にこだわるんだ……?」
「俺から離れることは……?」
「絶対にないと思うぞ。わからねぇと思うが、ほかにもレイに影響を受けているぞ。レイを目標としている子どもはたくさんいる。ノエリーエはその1人だ」
「別に目指さなくとも……」
「嫌と言っても目指すからな、諦めろ。それで、ノエリーエを護衛として雇ってくれないか? 一緒に冒険者をする約束を破った詫びとしてな」
強引に話しを持ちかけたな……。
確かに将来とんでもない強さになるのは間違いない。
今でもBランクくらいの強さはあるぞ……。
人材としてはほしい気もするが、すぐに決められるわけではない。
とりあえず、ノエリーエがここの生活に馴染めるか決めてみよう。
「アルロさんが戻るまで考えさせてください」
「おお、そうか。期待しているぞ」
まさかノエリーエがな……。ここまで聞くと、アルロさんとヘンズさんの子といえど、すぐには強くはならない。俺を目指してよほど努力していたはずだ。
それが本当なら並々ならぬ想いがあるはずだ。
とりあえず、長期滞在だから少し落ち着いたら考える。
この話はいったん保留にしておく。




