71話 意外でした……
宿の部屋に入ったらフランカは待ちきれない様子だった。
「ダンナ、早く出してくれ!」
「わかった、ほどほどにな」
無限収納から酒樽とコップを出した。
「ありがとな、ダンナ! 今日は飲みまくるぞ!」
フランカは酒樽の蛇口をひねってコップに注いだ――中身は果実酒だ。
それをゆっくりと味わうかのように飲む。
「美味しいぜ! 少し甘めだが気に入ったぜ!」
フランカの魔力が輝いている本当に好きみたいだ。
「アイシスは酒は飲まないのか?」
「はい、飲みません。私の場合お酒を飲んでも魔力が回復しません」
そっか、普通の人は酒を飲むと魔力消費するけど、魔剣の場合は回復しないでそのままか。
フランカの場合はドワーフの特性で酒を飲んでも魔力消費しないのを持ち合わせているから回復するのか。
いいとこどりだな……。まあ、こちらとしては助かるが。
「じゃあ、カクテルでも回復はしないのかー」
「甘いのであれば……回復します……」
結局は甘ければ酒もアリかよ……。
「そうか……まあ、無理して飲まなくていいから俺たちはお菓子でも食べるか」
「はい! ありがとうございます!」
「フランカも食べるか?」
「ごめんよ、アタイは甘ったるいのが苦手だよ……けど、ダンナの作ったガトーショコラは食べるぜ! 甘すぎず酒のつまみにもなるからさ!」
意外だな、好き嫌いあるのか。
「わかった。じゃあ、ガトーショコラを出すよ」
「助かるぜ! 唯一食べられるのはダンナのガトーショコラだぜ!」
「私もご主人様のガトーショコラは大好きです!」
2人とも嬉しいことを言いますな。
今日はゆっくりと好きなだけ食べてのんびりしていた――。
――夜になるとフランカは……できあがっています……。
「ダンナ~どこにいる~?」
『アハハハハハ! ドワーフになっても酔っているとかおもしろい!』
「量はそんなに飲んでいないけど……これほどとは……」
「ダンナ~見つけた~もう離さないぜ~」
抱きついてきて顔をスリスリする……酒を飲んでいるのにいい匂いがしますね……。
これは特性なのか……。
『アハハハハハ! 今日はもう飲めないね。ベットで休ませてあげなよ!』
「そうだな……」
「ダンナ~お姫様抱っこして~」
「わかったよ。これでいいか?」
「えへへ……大好きだよ……」
ここで不意打ちはやめてくれ……。
ベットに運び寝かせようとすると――。
「ダンナも一緒だよ~」
「――――いっ!」
そのままフランカに押さえ込まれ動けない……。
「もう離さないから~このまま合体だ~」
何を言っているのだ!? 早く離れろ!? アイシスが見てるぞ!?
「今日のところは我慢します……2人で楽しんでください……」
何赤くなって答えてるのだよ!?
『よし、もう逃げられないからフランカ! このまま合体だ!』
「りょうか~い~ダンナはおとなしくしてね~」
なぜそうなる!?
…………もう逃げられませんでした……。
そのままフランカに猛烈な攻撃を受けました――。
――――◇―◇―◇――――
――翌日。
再び賢者になりそうだ……。
フランカは満足したのか風呂に入っている。
「ダンナ、おはよう! 今日はいい日になりそうだ!」
風呂からあがってくると、全裸でそのまま俺の横に寝転んで来た……。
魔力は尋常じゃない程輝いていますね……。
「ああ……そうだな……」
「また、よろしくな、ダンナ!」
「わかった……」
もう、どうにでもなれ……。
朝食は……アイシスが作り置きしたローストビーフ丼です。
「また朝から肉料理ですか……」
「はい、今回は胃もたれせず、沢山摂れるように作りました」
「ハハ……そうか……」
「美味しいぜ! ダンナもしっかり食べろよ!」
『そうだよ! 今から肉を食べないと身体がもたないよ!』
当分、朝食は肉料理が続きそうだ……まあ、美味しいからいいけど。
朝食を食べ終えて、ギルドに向かい――中に入る。
受付をしているセイネートがこちらに気づき、ノズカッテさんの部屋に案内をしてくれた。
「おお、来たか! ギルド連中が鉱山に行って、隅々まで確認したが何もいねってよ! これで安心して採掘作業もできる。本当に助かったぜ! その報酬だ、受け取りな」
白金貨1枚を貰った。
「ありがとうございます。ではこれで失礼します」
「おう、いつでも来いよ! お前たちはこの街の恩人だからな!」
「本当にありがとうございました! いつでも歓迎してますのでまた来てください!」
こうして無事に依頼が終わった。
さて、帰るとするか――街を出てカルムに戻ろうとすると、魔力反応があった。
もしかすると――。
「ガレンさん、いるのですか?」
「気づかれましたか」
【隠密】を解除し、目の前に姿を現した。
「状況を確認しに来ましたが、その必要はありませんでしたね。レイさん、アイシスさんゴーレム討伐ありがとうございました。これで鍛冶街も景気が回復します。ところで……そちらの方は?」
ここで協会の人と会うのは少々厄介だな……フランカはどう言い訳するか……。
「私の知り合いです」
おっ、アイシスが説明してくれそうだから俺は黙った方がいいな。
「アイシスさんの知り合いですか? となると……賢者関係の方ですか?」
考察するとそうなりますよね……。
「ああ、そうだぜ! アイシスと途中で合流する話だったが、まさかこっちに来るとは思わなかったぜ!」
「なるほど、なぜあなたがこの街に?」
いろいろと聞いてきますな……。
「見ればわかるだろう。アタイはドワーフだぜ! 鍛冶街の技術はどのくらいか調べに来たのさ! だけど時期的に悪かったけどな」
「そうですか……納得しました。ちなみにギルドカードは持っていますか?」
「辺境暮らしで持っているわけないだろう。カルムで作ろうとは思うけどな」
「わかりました。では、ザインさんに後ほどミスリルカードを渡しますので、そのときに受け取ってください」
はい!? いきなりフランカもその待遇かよ!?
「いいのか? アタイは何も活躍とかしてないぞ?」
「問題ありません。貴方は底知れない強さを感じます。私の予想だとSランク以上の魔物は余裕で倒せると思います。そして着ている鎧、特殊加工していますね。ここでは作られない品物と考えられる――賢者だからこそ特殊な技術で作られると予想はしています」
意外に話がまとまって終わりそうだな。
「ほう、わかっているじゃないか。それならありがたく受け取るぜ」
「今後の活躍期待しております。では、私は忙しいのでこれで」
再び【隠密】のスキルを使い姿を消した。
「嵐みたいなやつだったな……まあ、これでアタイも不便なく活動ができるからいいけどさ」
いったい協会は何を考えているんだ?
今後も頼まれそうで不安しかないのだが……。
『何深刻な顔しているの? ボクの勘だとあの人はそこまで悪い人ではないよ』
「そうなのか? こき使われそうな気がするけど……」
『しょうがないよ、あんなに魔物が活発だから人手も足りないし猫の手も借りたいと思うよ』
「そうか……今のところはそう思っておくよ」
『うん、そうして!』
先のことを考えても無駄か、気を取り直して街へと帰る。
あっ……フランカのことどう説明すればいいのだろう……。




