719話 勇者召喚④
「帝王さんよ、戦争に参加すればいいんだな? 俺は賛成するぜ」
「おお、そうか! やっとまともな勇者がいた。ソナタに特別な待遇をしてやろう」
「よっしゃ!」
赤髪である腕まくりをした不良っぽい男――伊佐木准はやる気のだった。彼は微笑みを浮かべてなぜかこの場を楽しんでるかのように。
「何言っている伊佐木!? 高校生が戦争に参加して何ができる!?」
「これだから優等生は困る。こんな面白いのなかなかにねぇ、戦争? ケンカと同じじゃねぇか。俺たちが勇者って言われているなら、それなりの力があるってことだ。だから選ばれたにちげえねぇ」
「お前……戦争をケンカと一緒にするな!? 変なところに呼ばれて頭がおかしくなったのか!?」
「はぁ? 訳わかんね。 この状況で抵抗する優等生のほうが頭がいかれてる。ハハッ、そうか、優等生がバカになったか。これは面白い」
伊佐木はヨシマツを挑発するように見下した。日頃、優等生ぶっているのが気に食わないかのように。
「伊佐木!」
「動くな!」
軍は剣を突き出して抵抗させないようにするが、ヨシマツは身体から膨大な魔力が放出し、刃先を掴んで奪い取って投げ捨てた。そのままかき分けるかのように、軍の包囲網から抜け出して伊佐木に向かい殴ろうとする。
「こいつを止めろ! 殺して構わん!」
しかし、目の前に大将――ノンダリが阻み、細い腕でヨシマツの腹を殴った。
「――――ウブゥ!?」
あまりの痛さに、膝をついて怯んでしまった。
「ほう……。儂の暗殺拳でも耐えられるとはどんな身体をしている? 竜の鱗を貫くほど力だぞ。中将のスキルも効かない。となると……お前は儀式には向かない。完璧な肉体だが、実に惜しい」
ノンダリは短時間でヨシマツのスキルをだいたい把握した。
舌打ちをして残念そうに見る。
「陛下、こいつらは危険です。牢屋に入れてしまいましょう」
「そうだな。私に不敬を働いた。この愚か者どもは奴隷にする。許可しよう」
「承知。おい、強力な奴隷の首輪を抵抗した奴らにかけろ!」
ヨシマツたちは軍に奴隷の首輪を付けられ、洞窟から出てしまった。
それを見た伊佐木は高笑いをし、幸福感に満ちあふれていた。
「フフフ……ハハハハハ! 優等生どもが犬のように首輪を付けられるなんて傑作だな! これで俺の邪魔する者は消えた! いい気味だ! お前らもそうとは思わないのか?」
伊佐木は周りに問いかけるが、戸惑っていてそれどころではなかった。
しかし、おかっぱメガネの小柄な男――池垣敦がおそるおそる手を上げる。
「あの〜、奴隷になった人は今後どうなりますか……?」
「どうするって、決まっているだろ。商品として持っていく。何か問題でもあるのか?」
「い、いえ、そういうわけではありません……。あ、あの……褒賞として奴隷をもらえることはできるでしょうか……? あの中にいる小柄の女の子を……」
「それだけのことか。いいだろう。ソナタが活躍すれば褒美としてくれてやろう」
「い、いいのですか!? ぼ、僕、一生懸命頑張ります! グヘヘヘ……これで西崎さん――いや、咲花は僕のものになる……」
池崎はまだ自分のものにならないのに不気味に笑って確証を得ていた。
長年の恋がようやく叶うと。
「池垣、あのクソ真面目で生意気な女が好きだったのか。まあ、お前がやる気になるのはいいけどよ」
「グヘヘヘ……咲花……」
伊佐木は呆れながら言うが、自分の世界に入ってしまい、聞いていなかった。
「まあいい、帝王さん、俺たちは参加する。それでいいか?」
伊佐木は勝手に言ったが、周りは反論をしなかった。
ヨシマツと同じようになると思ったようだ。
「交渉成立だ。ソナタたちの活躍、期待している」
こうして勇者たちは帝王に従うしかなかった。
理不尽に話は終わり、勇者たちを連れて城に戻ろうとするが――。
「陛下、私、この子にするさ」
「儂もこやつにする。あいつの次に素質がある」
キャンメラとノンダリは茶髪の女と長身坊主の男の前で言う。
「おお、そうか。この勇者は丁重に扱ってくれ」
帝王が言うと軍たちは、2人を囲み、厳重体制にする。
「心配はいらないよ。私はあんたを気に入って弟子にしたいだけだよ」
「心配はいらん。儂はお前さんを鍛えたいだけだ。この内戦に備えてな」
キャメラとノンダリは不安を解消しようと、言葉をかけたが、それは全くの嘘である。
そう、儀式として使われることに――。




