708話 脱走④
みんなが1階に降りてきて、散らばっている破片を避けながら進む――。
「ハデにやったな……。いくつ壁を壊した……? 普通の強さじゃねぇぞ……」
デムズさんはかなりドン引きをしていた。
できるものは仕方ないです……。
「やっと……出られる……。ようやく日向を歩くことができる……」
委員長はボロボロと涙を流して感極まる。久しぶりに外に出るのは本当に嬉しいだろうな。みんなつらい思いをしてよく耐えた。
しかし、まだ面倒なことがある。
「主様……外に下等生物がいますが、ワタクシがやってもよろしいでしょうか……?」
当然のことメアはわかっている。
「相手が仕掛けたらやってくれ。それまで様子見だ」
「フフフフフ……わかりました……」
もうバレてしまったから好きにしてもいいが、約1名――王子にとって踏ん張りどころである。
「王子、外に出たら覚悟してくれ」
「どういう意味だ?」
「なるほど……そういうことですか……」
ムロナクも気づいて短剣を構えて臨戦態勢である。
カイセイ、コトハ、ナノミも気づいて武器を構える。
【第六感】を持つエミカは真っ青になっていた。
「なんだみんなして、敵がいるのか?」
「殿下……これから大変だと思いますが、受け止めてください……」
「なんのこ……と……」
城から出ると――庭にいたのは、武器を構えたり魔法の準備をしていた軍と、腕を組んでイライラしている帝王の身体を乗っ取ったボウフマンに、その隣にいる無表情の第一王子が待っていた。
パレードの最中なのに待ち伏せされとは……。侵入者を知らせる魔道具でもあるのか? だが、勇者の姿はなかった。
パレードは中断しているわけではないか。
王子は声が出なくなり、身体が震えていた。
まだボウフマンと軍に見られるのはいいが、兄には絶対に見られたくはない姿だ。
もう城の外に出たからいつでも空間魔法を使えるが、メアとムロナクは臨戦態勢でボウフマンを狙っている。もう見られたからには、こいつの首を取って、周りを混乱させるのも手のうちか。危なかったらすぐに使う。
「エレ……ち、違う……これは――」
「何が違うのだこの出来損ない! お前には失望した! せっかく機会をあげてやったのに裏切りやがって! やはり、お前はこの裏切り者の味方だったのか! 本当に失望した……」
ボウフマンは王子に怒鳴り散らす。これは予想していたが、兄は無表情のまま何も言わない。
「それはいいですが、自ら王が出向くとはどんな神経をしているのですか?」
まさかムロナクが挑発をするとは……。もうここには用がないから開き直ってやっているかと思ったが、相手を探るためにやったのかもしれない。
ボウフマンと確かめるために。
「黙れ裏切り者! こそこそ何かやっているとわかっていたが、ここまで落ちぶれたか愚か者め……」
「さぁ、なんのことでしょうか? あなたに忠誠など誓っていないのですよ? 処刑人を逃され、宝物にも手を出されてよほど腹が立っていますね。王というのは常に冷静な判断をしなければならないのです。自ら出向くのは殺してもいいですと言っているようなものです。本当に王なのですか?」
「黙れ老いぼれ! お前は私の手で殺してやる! 覚悟しておけ!」
さらにムロナクが挑発すると、ボウフマンは足を地面に叩きつけて顔が真っ赤である。
メアは面白いのか笑いをこらえている。完全にツボにハマっているな……。
「あの仕草……ボウフマンか……」
やはりボウフマンか確かめていたか。すると、ムロナクから思いっきり殺気が出始める。相当本気のようだ。殺気にやられたのか、周りは怯えて一歩引いた。
【威圧】を放っているわけではないが、邪石を付けている相手にも殺気でここまでできるのはすごいな。
だが、兄だけは動じなかった。
「何をやっているお前たち!? エレリット、皆を強くしてくれ!」
「はい……」
強くする? 強くってまさか――。
「エレ、やめるんだ……。【先導者】を使わないでくれ……、私は戦いたくない……」
ロードが持っているユニークスキルじゃないか……。
ルチルの【同族強化】には劣るが、周囲の者を強化――バフをかける。
前に禁忌野郎戦のときに騎士団にかけているとエメロッテに報告があった。
ロードが好きで士気が上がっていたと思ったがそうではなかった。
まさかユニークスキルを持っているとは意外だ。
しかし、兄は王子の言葉を無視して腰に付けているレイピアを取り出した。
もう王子の言葉は響かない。悪いがやるしかなさそうだ。
けど、おかしなことにスキルの発動しない武器を構えたままだ。
「どうしたエレリット! 早く強化を――――グハァ!?」
その瞬間、兄はボウフマンの身体――心臓を貫いた。
周りは予想外の出来事で戸惑う。




