701話 牢屋③
『――というわけだが、誰か説得に来てくれないか?』
『いいですよ。お安い御用です』
『私も行きます』
『もちろん行きます!』
3人とも説得してくれるようだ。まあ、同郷人が来るのは嬉しいよな。
『助かるよ。メアが今呼ぶから準備をしてくれ――』
あとは3人が来るのを待つだけだ。
ここはメアに任せて、奥――拷問部屋に捕らわれているボウフマンだ。
王子はボウフマンを嫌っているから、ここに置いて行こうとすると――。
「王子……なぜ止まっているのです……? 主様と一緒に行きなさい……。この魔法は集中しないといけません……」
「そうなのか……? はぁ……わかった……」
なるほど、メアは俺たちのことをいろいろ話したいから、王子を席から外したいみたいだ。俺としてはそっちのほうが助かる。
悪いが王子も一緒に来てもらう。
さらに奥へと進むと――灯りがなくなり真っ暗な場所に移動する。
光魔法で照らすと、一変して静かである。周りを見渡しても誰もいなく、牢屋なんて使用した形跡などない。
グールで騒がしかったのに、ここまで静かとはかなり不気味だ……ボウフマンの精神が保っていればいいが……。
そして行き止まり――血がついた鉄の扉の前に着いた。
鍵はかかっていないが……奥は……魔力反応がない……。
まだだ、この目で確かめないとわからない。
「私はここで待っている」
まあ、ここまでくれば無理に会わなくてもいいけどな。
俺たちは扉を開けると――今度は鍵のかかった扉が出てくる。
二重にしているわけか。俺は無魔法で解除して扉を開くと――これは酷い……。
白髪頭の痩せ細った50代くらいの男が両腕を鎖で縛られて全身深い傷を負い、床の周りは血だらけである。
辺境伯とムロナクは下を向く。遅かったか……。
「うぅ……」
すると、身体が動き始め、魔力が微かに反応する。
「生きている。子爵殿お願いします!」
「わかっています――――龍脈!」
俺は龍と回復の【混合魔法】を床に手を当て、魔力の脈をボウフマンに流した。
身体は回復するが、魔力が回復しない……。
ここまで生きているのが奇跡だ。いや、気力と精神力がなければ生きられないほどだ。
「残念ですが彼はもう……」
俺は首を振り、「アンロック」で鎖を解除させた。
せめて楽にさせよう。辺境伯は支えて、声をかける。
「しっかりしろボウフマン! まだお前に恩がある! だから生き延びろ! 私に恩を返させてくれ!」
それでもボウフマンの反応がない。
やはり厳しいか……。
「こ……これを……受け取ってくれ……」
ボウフマンは手を震えさせながら一瞬で分厚い本を出した。
商人だからアイテムボックスを持っていたか。
「これは……?」
「これに……真実……を書いた……。だから……見てくれないか……?」
「真実……? どういうことだ……?」
「すまない……、私は……もう……無理だ……ゆっくり休ませてくれ……」
「ダメだ! そのまま寝てはいけない! もう少し耐えてくれ! まだやることがあるだろ!」
「ハハハ……やること……。それはもう……十分やり遂げた……」
「嘘をつくな! 本当はやりたいことがあるだろ!」
「あるけど……もう叶わないことだ……」
「言ってみろ、私も手伝う!」
「息子……息子たちに謝りたい……」
「息子……? ボウフマン、お前に息子がいたのか!?」
「ああ……そうだ……。だが……もう……」
「しっかりしろ!?」
「すまない……エレリット……フレリット……。もうすぐ行くよ……アランティーヌ……」
ボウフマンは目を閉じて息を拭き取った……。
俺は一瞬背筋が凍る……。
待ってくれ……あの兄弟の名を口に出した……。
息子ってあの兄弟か……? アランティーヌって……確か……辺境伯の姉――王子たちの母親だ……。
やめてくれ……こいつはボウフマンじゃない……【魂移し】された帝王だ……。




