696話 王子の不安
ベッドでうつ伏せで寝ていた王子はため息ついて起き上がった。
すぐに機嫌は良くなるわけないよな。
俺は計画のことを話すと――。
「ああ……」
虚ろな目をして答えるだけだった。
「王子……聞いているのです……? もしや……帝王の嫁――義理の母を狙っているのを考えているのですか……? まあ……なんてことを大胆なことを考えているのでしょ……」
「ああ……」
メアが適当に挑発するが、それでも反応が薄かった。
かなり重症だな。このまま続けば王子は部屋に残して救出したほうがいいな。
「はぁ……全然ダメですこと……。そんなに帝王に言われたことが傷ついたのですか……?」
「違う……帝王が私を嫌悪感を抱いているのは、小さい頃――昔からだ……。私はもう慣れている……。エレのことだ……。私を処刑執行人をやめさせるのように帝王を説得してくれた……。2人を救出するのに……エレに申し訳ない……」
罪悪感があるのか。兄は弟を溺愛しているし、手を汚させたくはないのだろう。
必死に止めるのが当たり前だと思う。
「寝言は寝てくださいます……? 申し訳ない……? 第一王子はあなたのために帝王――周りに泥をかぶってまで発言をしたのに、申し訳ないとは……何様のつもりですの……? まるで第一王子の説得が無駄だと言っているのと同じです……」
メアとしては珍しく正論を言う。
王子にはここで割り切らないと俺も困る。
あとで後悔しても遅い。
「そ、それは違う! 私はエレのことを思って――」
「思うのなら帝王になって恩を返せばよろしいのでは……? あなたは今、第一王子の心配する余裕はあるのですか……?」
「そ、それは……ない……。今優先するのは……叔父とグランドマスターを救うのことだ……」
「よろしい……。これが終わったなら、第一王子を心配するなり、亡命に誘うなり、兄弟同士愛しあったりするなり、すればいいですこと……」
「そうさせておく……。ちょっと待て、最後の言葉はどういう意味だ?」
「フフフ……変な意味では言っていません……」
どさくさ紛れて言ってますね……。もう「ブラコン」と認識しているから仕方ないです。
すると、第一王子の魔力――反応がこちらに近づいてくる。
そしてドアをノックする音が聞こえた。
「フレ、今大丈夫か?」
俺とメアは【隠密】を使い、様子を見ることに――。
「ああ、入ってもいいぞ」
第一王子はドアを開けて中に入ってきた。
「フレ……その……すまなかった……。父上を説得できなくて……」
謝るために入ってきたのか。やはり弟想いだな。
『フフフフフ……これはよいブラコンですこと……』
メアさん……あっ、もういいです……。メアさんのご想像にお任せします……。
「私は気にしていない。いつものことだ。むしろ、父上は私に期待しているかもしれない。エレ、気を遣ってくれてありがとう。私はこんなにも優しくて素晴らしい兄を持って嬉しいよ」
「逆だ……私は……弟に何もできていない……。どうして急にフレを嫌ったりしたのかわからない……。あんなに優しかった父上がどうして……」
「もう昔とは違う……私が出来損ないだからだろう。それにエレは私より優秀だから嫌われるのは当然さ」
「そんなことはない! 私は誰よりもフレをわかっている! 我慢しているところ、努力しているところ全部! だから私は諦めない! また父上に説得をしようと思う! だから、無理をしなくていい!」
「エレ……ありがとう……」
王子は兄の励ましの言葉でつい涙を流してしまった。
そして、涙を拭いて――。
「エレ……少し散歩しないか……? 気分転換したい……」
「ああ、いいぞ!」
兄弟は手をつないで部屋から出てしまった。
当分は会えないから少しでも多くの時間をつくりたいよな。
いい兄弟――。
「ワタクシは何を見せられているのです……? ちょっと違うのを期待していましたが……」
メアはいったい何を期待していた……?
ちょっと愛の強い兄弟でもういいと思います。手をつないでいたのは少し驚いたが……。
額に手を当てて、深く考えなくていいですよ……。




