694話 帝王と勇者②
兄は拳を強く握りしめて悔しそうだった。
言っても無理だとわかったか。
「わ、わかりました……」
「さすが私の愛息子であるエレリット〜、物分かりが早い。ということだ、フレリット……わかっておるな……?」
「謹んでお受けします……」
変わらないのは仕方がない。まあ、処刑なんてさせるつもりはないけどな。
「では、明日には祝杯として――勇者披露式を行う。たく、お前のために待っていたんだぞ。感謝しろよ。エレリット〜、少し話があるから残りなさい」
ん? 城下町を見渡しても準備をしていなかったが披露宴やるのか?
急すぎないか? 王子が戻ってきてやる予定なのはわかるが、急だな。
これで話し合いは終わった。
【隠密】がバレなくて本当によかった。
大体のことは把握できたことだし、王子と一緒に戻って――。
「「「はぁ……はぁ……」」」
嫁にされた勇者3人が急に倒れて息が荒くなった。
えっ……3人とも体型が変わり――小さくなり、長い黒髪が短くなった。
ソシアさんみたいな凛々しい顔から童顔になった。
どういうことだ……?
だが、周りは微動だにしなかった。
「まだ足りなかったか。おい、女神の聖薬はあるか? 今度は強力なの頼む――原液でもいいぞ」
「ハッ、ここに――」
軍の1人が大事そうに抱えて、宝石を付いた黄金の瓶を持ってきて帝王に渡した。
そして軍たちが無理やり3人を中央に引っ張りだして、公開するように帝王は無理やり瓶――ピンク色の液体を口に流し込んだ。
「あ、あつい!? 身体が壊れちゃう!?」
「い、いやぁぁぁぁ――――!」
「や、やめて、もう飲みたくない!?」
すると、全身汗だくになり、床に倒れ込んで叫んで、3人の身体と髪型がソシアとほぼ同じ姿になった。
おい……あの薬……ソシアさんと同じにするのか……。
ということはさっきの姿は元の身体ってことか。
「まだ完熟はしていないか。残念だ。今回はこれ以上の飲ますと、女神ソシアと別人になる。それまで楽しみにしておこう」
変な薬まで使ってソシアさんにするつもりかよ……。
本当に最低な野郎だ。
『悪趣味にもほどがありますこと……。あの豚に欲情されながら飲まされるのは不快極まりない……』
メアはドン引きしているかと思ったが、かなり怒っている。
メアの中に許せないものがあるようだ。もしかして助ける気か?
そうなったら少し考えさせてくれ。
「な、何が起きた……」
「お前はまだ早い、部屋に戻っていろ」
王子は困惑したが、軍が王子を遠ざけて謁見の間から出た。
王子はため息をついて落ち込みながら自分の部屋に戻った。
部屋の中に入り、王子に声をかけた――。
「なぁ、玉座に座っていたやつは偽者か? かなり王子を嫌っていたが……」
「あれは……、本者の帝王だ……。偽者ではなかった……」
本者かよ……。よくあれで帝王とかやっていけるな……。
嫌っていたとはいえ、息子だし出迎えることはするよな。
「そうか、少し休んでくれ……」
「ああ、そうさせておく……。私が休んでいるときに城を散策だけはしないでくれ……」
「チィ……」
王子はベッドに飛び込み、うつ伏せになった。
メアさん気持ちはわかりますが、舌打ちをしないで我慢してください。
やはり、あの3人が気になるようだ。
王子が落ち着くまで俺たちは設置してあるイスに座っておとなしく待とう。




