689話 みんな亡命
「それなら亡命する気はないか? 俺の領地に歓迎するぞ」
俺が言うが、浮かない顔をする。
「お気持ちは嬉しいですが、逃げられるか難しいです。俺とブリアンは見ての通り体格が普通の人より大きいです……。すぐ軍に見つかって迷惑をかけると思います……。それなら娘――カノンをお願いします……。この子なら匿って移動できます……」
ああ、大がかりな逃亡だと思っているようだな……。空間魔法のこといい忘れていた。
「その心配はないぞ。転移魔法を使って一瞬で領地行く。いつでも行けるぞ」
「えっ……転移魔法……? つまり…、家族全員行けるってことですか……?」
「そうだぞ。ゼティスたちにずっとパンを振る舞って――いや、俺たちにもパンを振る舞ってくれないか?」
「あ、ありがとうございます……。これで家族みんな安心できます……」
3人は膝をついて涙を流して拝んだ。
「まだだぞ……。早速だが、準備をしてくれ。持っていけないのはアイテムボックスに入れるぞ」
「アイテムボックスまで!? あなたは何者ですか……? プレシアス大陸の人はこんなにすごいのか……。これは筋肉でも勝てない……」
筋肉と比べては困るのだが……。
「いや、みんながそうではないぞ。実は――」
筋肉一家にこの大陸に来た経緯を話す――。
「テムズグランドマスターを救うのですか!? なんという偶然だ……。これも運命のいらずらなのか……」
「そういうことだ。グランドマスターとはどういう関係なのか知らないが。嫌でも助けるからな」
「とんでもない、俺とプリアンはグランドマスターにはお世話――恩人です。救ってくださるのは、願ってもないことです!」
「なら、助けたら会わせるぞ。元気な姿を見せろよ」
「もちろんです。あなたはどうしてそこまでしてくれるのですか……」
「ただやることをやっているだけさ。これが偶然に重なっただけ。だけど、今助けられたのは、日頃の行いがよかったからではないか? ゼティスたちにパンをあげたから俺と会うことはなかった。それが運につながったと思う」
「そうですか……。当たり前のことをしただけなのに……まだ実感が湧きません……」
「それでいいんじゃないか? さあ、早く準備してくれ――」
筋肉一家は急いで、周りの道具とか大きなリュックに入れる。
「では、テーブルやイスをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ――ん? どうかしたの……か……」
俺をコートを後ろでカノンが引っ張っていて振り向くと、片腕でベッドを持っているのだが……。
「これもか……?」
笑顔で頷いてきました……。
「よく【身体強化】しないで持ち運べるな……」
「ハハハ! カノンは俺たちと一緒に筋肉を鍛えていますからね! 自慢の娘です!」
いや、筋トレしただけでは、そうはならんだろう……。
完全に筋肉夫婦の血を受け継いている……。
将来有望ですな……体格はそのまま維持してほしいが……。
大きな家具は俺の無限収納に入れて準備ができた。
「もう行くが、悔いはないか?」
「ないです。俺たちは筋肉があるかぎりどこにでも行けます!」
筋肉がネタはもういいよ……。
気を取り直して、空間魔法で領地に移動する――。
集会場に移動すると――先に着いたキャンロたちがゼティスに駆け寄って喜んでいた。
「本当に移動した……。もうここは、プレシアス大陸――子爵様の領地ですか……?」
「ああ、そうだ。今日はもう遅い、働いて疲れているだろう? 温泉に入って筋肉を癒やしてくれ。夕食はもうみんな食べたから、別のを用意する。俺の屋敷で食べてくれ」
「き、筋肉を癒やすものもあるのですか!? ここは天国か……」
シューイノンの全身筋肉がピクピクと動いている……。
筋肉が喜んでいますね……。
アイシスに案内を任して、王様に報告しないとな――。
「レイ、よく連れてくるね。住民でも増やすの?」
駆け寄ったエフィナが笑顔で言う。
たまたまです……。まあ、呆れて言ってないからいいけど――。
『えぇ〜、また連れてきたの〜。レイ君は、住民でも増やしているの〜?」
王様もエフィナみたいに言ってきました……。
なぜか喜んでるのは気のせいか……?
まあ、反対していないのはよかった。
明日から帝都に行くのにイベントが多すぎだ。
これでやっとひと息できる。




