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686話 商会の権力


「子爵様、どうかお願いします! 僕たちだけではもう生活ができないです! これは父上様――みんな親からもらったお金でございます! どうか、このお金で子爵様の領地にみんなを住ませてくれませんか!? もし、足りなければ働いて返します!」


 ゼティスがぎっしりと詰まった袋に俺に差し出す。

 確認すると――白金貨、大金貨、金貨と宝石が入っていた。こんなに……さすが貴族だ。

 必要な資金を渡してくれたか。よく使わずに持っていたな。


「こんな大金を俺に渡していいのか? みんなでよく考えたのか?」


「はい! 子爵様はプレシアス大陸にお住まいとメアさんから聞きました。お父様からプレシアスの人は優しいお方が多いと話していました。僕はお父様を信用しております。どうかお受け取りください!」


 お金で解決できる問題ではないけどな……。けど、大事なお金を手放す覚悟で俺の領地に行きたいのは本気のようだ。


「俺がこの金を受け取っても、みんなが優遇される保証はないぞ。プレシアス大陸は人間以外の種族もいる。特にズイールで不遇とされている獣人とも仲良くできるか? 話はそれからだ」


「もちろんです! あの……獣人は不遇なのですか? お父様は獣人の方を執事とメイドでとして雇って良い関係でしたが……」


 どうやら平等に接していたようだ。辺境伯と同じような人だったかもしれない。

 だとすると、かなりの変人扱いされた可能性もある。

 まさか、周りに目をつけられたという可能性もあり得なくもない。


「雇った獣人はどうした?」


「僕を逃がそうとしてみんなは……」


 ゼティスは下を向いて唇を噛み締めて涙を流した。帝国軍にやられたのか。

 嘘は言っていなく本当のようだ。


「そうか、聞いて悪かった。メア、みんながいるところに連れてくれ」


「フフフ……承知いたしました……」


 メアの空間魔法で移動すると――目の前には、屋敷が破損して丸裸だった。

 周囲も破損した建物や、ヒビが割れて崩壊寸前の建物が多い。


 スラム街だからかなり汚いイメージだと思ったがそうではない。どれも貴族が住んでいるような屋敷に、それなりに高価な家だった印象である。前は貴族街だったのかもしれない。


 貧困層が住んでいるのかと思ったがどうやら退廃地区のようだ。

 だが……、かなり新しく朽ちて建物が崩壊しているのではない。人為的に壊された感じである。

 暴動でも起きたのか?


 俺たちが気づいて屋敷に隠れていた少年少女が恐る恐る出てきた。

 みんなボロボロの貴族服を着ていた。

 なぜ、貴族の子だけが一緒にいる暮らしてるのもわかった気がする。


 ここの貴族街で暮らしている子なのかもしれない。

 ドミベック商会が絡んでいるのはわかっているが、なんでここまでする必要があるかだ。


「ゼティス、自分が暮らしていた屋敷はどこだ?」


「ここから別の区域――東にある住宅街のところです」


 なら、ここの状況を知っているわけではない。

 ほかの子に聞かないとわからない。


「メア様……、連れてきたお方は……」


 ゼティスより年上の赤いゴスロリを着た少女が、ゆっくり前に出て言う。

 少しつらそうな感じだな。


「そうです……。ワタクシの主様のです……」


「し、子爵様……メア様を連れてくださり……誠にありがとうございます。メア様のおかげで、だいぶ楽になりました」


 俺に深々と頭を下げた。なるほど、治療した子のようだ。


「俺は何もやっていない。礼はメアに言ってくれ。それより、俺の領地に暮らしたいのは本当か?」


「はい……。見ての通り……私たちでは厳しいです……。私たちはもう……帝国軍に追われている立場です……。都市を離れようとしても、門前で見つかるので無理に等しいです……。このまま続けても、生きていく自信がありません……。どうかお願いします……」


 まあ、あれだけ軍がいれば八方塞がりだ。


「とりあえず聞きたいことがある。その、名前は――」


「キャンロ・ベルグラと申します」


「ではキャンロ、ここの建物が崩壊する前から住んでいたか?」


「はい、帝国軍から襲撃が来る前から住んでおります……」


 やはり帝国軍の仕業か……。


「なぜここだけ襲撃されたかわかるか?」


「みんな逆らったからだと思います……。理由はそれぞれありますが……あまりにも理不尽です……」


「その理不尽は言えるか?」


「ドミベック商会に難癖をつけられたことしか……。何も悪いことはしていないのに……」


「みんなそうなのか?」


 そう言うとみんな頷いた。ここ周辺をやるとは相当気に食わなかったのだろう。


「思い当たるところはないか?」


「私は……魔法が使えるのですが……なぜか知りませんが、ドミベック商会の耳に入り、私を商会に雇う話がでてきました。護衛のつもりで雇うのかと思い、父上は断りました。多分……私はそれだと……」


 ほかの子は――ドミベック商会の品を買わなかったり、ドミベックの悪い噂を広めたり、商談を断ったりなどさまざまだ。


 これだけのことで追い詰めるとか、頭がおかしい……。どれだけ権力を持っている……。

 相当な短気だ……。


 もう同情するくらいだ……。

 やはりこのまま放っておくわけにはいかないか。

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