685話 お願い……
メアがいなくなって、3時間――日が暮れる時間になった。
さすがに夜遅くまで散策はしないはずだ。そろそろ戻ってくると思う。
「フフフフフ……ただいま戻りになりました……」
噂をすれば空間魔法で戻ってきて…………ボロボロの貴族服――タキシードを着た少年を連れてきたのだが……。10歳ちょっと――シェルビーくらいの年齢だな。
「あの……メアさん……いったいどういう風の吹き回しだ……?」
「フフフフフ……スラム街で見つけました……。見捨てるわけにはいけませんので……」
スラム街? 近代化している都市にスラムがあるのは意外だ。窓で見渡したが、酷い建物とかは見えなかった。その奥にあるということか。
この少年は、スラム出身というわけではないな。こんなぴったりな貴族の服を拾えるわけではない。没落した貴族の子の可能性が高い。
このタイミングで面倒事で持ってくるなよ……。それほど放っておけないみたいだったか……。
「なんとなく察したが……俺の領地に連れて行くつもりか……?」
「フフフフフ……さすが主様でございます……。それと、主様が見捨てられない理由もございますよ……」
「理由か? スラムにいる輩が危険とか?」
「それもございますが……、この子は……ドミベック商会に騙された貴族の子です……」
ここでもドミベック商会かよ……。コナーズもそうだが、貴族を騙すとは……どこまで姑息なんだ……。
「そういうことなら仕方がない。だが、この子になんで騙されたか聞かないと」
「そうですか……、しっかり話しなさい……」
「はい……、僕のお父様は事業拡大のために、ドミベック商会と提携をしました……。最初はよかったのですが、急に赤字続きで、多額の負債が……」
「それならドミベックにも責任があるだろう」
「それが……すべてお父様の責任となる契約をしていました……」
完全にハメられたというわけか。よほど信頼されなければ、提携なんてしない。
詐欺師と同じやり口かもしれん。
「その父親はどうした? 母親もどうした?」
「わかりません……。怖い人――帝国軍が来るから僕だけ逃げるように言われて……帝国軍から必死ににげました……。けど、どこに逃げればいいかわからなくて……スラム街で生活をしてます……」
軍が絡んでいるならもう……真っ黒だな……。
「親戚とか頼れる人はいなかったのか?」
「無理ですよ……親戚がドミベック商会を紹介してくれたので……頼れないです……」
親戚も絡んでいたのかよ……。完全に詰んでいたってことか。
「事情はわかった。しかし、よくスラム街で暮らせたな。食べ物はどうした?」
「いつもお母様が通っている知り合いのパン屋に売れ残りをもらって助かっています。ほかにも――必要な物はお金を渡してお願いています」
知り合いがいるなら大丈夫ではあるが――。
「騙されたとはいえ、負債にされた子どもなら、軍も捕まえてくるはずだ。周りが軍だらけなのによく見つからないな」
「帝国軍はスラム街には見回りは来ません。それに、夜になると見回りが薄くなります。その間にパン屋に行っています」
食には困っているわけではないか。、ギリギリ暮らせているラインってわけか。
けど、このままだと限界がやってくる。はぁ……メアが連れてきたなら、面倒を見るしかないか……。絶対後味が悪い。
「名前はなんだ?」
「ゼティス・マルレットと言います!」
「ゼティスは俺たちを疑わないのか? もしかしたら悪いやつかもしれないぞ?」
「そ、そんなことはありません! お姉さん――メアさんは僕と一緒に暮らしている仲間の病を魔法で治してくださいました! 無償で助けてくれたお方を疑いはしません!」
助けたのかよ……。けど、メアは治療しないといけない状況だったのかもしれない。
そこに関しては褒めよう。というか仲間がいるのか?
確かに少年1人だけ生きていけないよな。
いや、ちょっと待て――。
「ちなみに、その仲間っていうのはどういう関係だ……?」
「僕と同じようになった子どもたちです……」
「はぁ!? ドミベック商会にやられたのか!?」
「は、はい……みんなドミベック商会のせいだと言っています……」
「メア、子どもは何人いた?」
「この子合わせて17人です……。中には、兄弟姉妹もいますので……」
そんなにいるのかよ……。
兄弟姉妹を含まれても、かなり騙されているな……。
かなりの被害だぞ……。
「メア、全員貴族なのか……?」
「はい……全員、庶民とは思えない服装をしていたので、間違いありません……」
「じゃあ、連れて行くのはゼティスだけではないってことだよな……?」
「はい……、全員お連れにしようと考えてます。主様……寛大な対応をお願いします……」
…………最初から言ってくれよ……。
ゼティスだけだと思ったぞ……。




