683話 聖水
――翌日。
ピランセに戻り、王子と合流して馬車に入る。
しかし、出発することなく数十分ほど待っている。
どうやらイングルプが来ないらしい。
捜しても見つからないようだ。
けど、魔力反応ではこっちに向かってくるから大丈夫そうだ。
窓から見ると、部下に抱えられながら来た。
足がふらついているが、酔っているのか? 邪石付きでも酔うのか?
というか酒場にいなかったのかよ……。酔ってどこか彷徨っていたのか?
「ぐえぇ……飲むすぎたぜ……。聖水をよこしてくれ」
聖水? 部下が品質の良い瓶に入った透明な液体をイングルプに渡して一気に飲む。
すると、邪石が輝き始め何事のないように立ち上がった。
あの薬、邪石を活性化させるようだ。
だが、そのあとに顔に血管が浮き出て、少し身体が膨張し、よだれを垂らして様子がおかしかった。完全に副作用だ。
やがて、元の身体に戻っていく。
「へへへ……最高の気分だ……。天に昇るほどの気持ちよさ……。もっとよこせと言いたいが、1日1個と言われているのが残念だ……」
なるほど、それ以上飲むと、邪石が暴走して、化け物の姿になるということか。
これも禁忌野郎が開発した品か。副作用が全くデメリットのない面倒なものを開発したな……。
「フフフ……、そのまま暴走すれば面白かったですこと……」
メアさん……ここで暴走するのはダメですよ……。
面白いより面倒です。
「な、なんだあの薬は……。あれが世に出てはいけない……。大変なことになる……」
王子は顔が真っ青になっていた。
もしかして邪石限定で反応しているのは、わからないみたいだ。
まあ、危険な物に変わりないから言わなくていいか。
やっと出発して次の街に進む――。
――――◇―◇―◇――――
――あれから1週間が経つ。
何事もなく進んでいるが、イングルプの気分で馬車を止めて大型の魔物を相手にしていることが多い。
ずっと根に持っていて呆れるしかない。
それでも、予定通り進んでいるとムロナクは言う。
確かに寄り道をしているような行動はしていない。
オンオルだけ用があったみたいだ。
問題なければいいが、野宿をしているとき、遠くから膨大な魔力――イングルプの魔力が漏れていた。
俺とメアは気になって駆け寄ると、誰もいない場所――草むらの中で上半身裸で身体がボコボコと膨張していく。それも前回より倍以上に膨れ上がっている。
けど、前回と同じで元に戻る。
「グヘヘヘ……最高の気分だぜ……。我慢できずにやっぱ1個じゃあ、物足りないぜ……」
あの邪石薬を複数使ったのかよ。
完全に中毒だな。
それはいいが、気になるのが――邪石が一回り大きくなっていることだ。
あの薬、成長作用もあるのかよ……。
「しょ、少佐……いったい何を……勝手に聖水を持ち運んでいるのですか!?」
1人の部下が慌てて駆け寄ってきて、空の瓶を見て注意をする。
「うるせぇ! 我慢できねもんはしょうがないだろ!? お前も飲め! 最高の気分になるぜ――」
「――――ゴブゥ!?」
イングルプは無理やり部下に薬を飲ませると、邪石が輝き始めた。
「ハハハ……ハハハハハハ!」
急に笑いだして踊り始めた。
「だろ? 最高の気分だろ? ほかの奴らに飲ませると廃人になって終わるが、お前は大丈夫だな」
廃人になるほど強力なのかよ。
限られているのに飲ませるとは鬼畜だ。
だが、イングルプ同じように身体は膨張しないぞ?
急に止まって天を仰いでいるが?
「――――キエェェェ!」
発狂し、邪石が破裂して灰になった。
廃人どころの騒ぎではないぞ……。
「なんだ、派手にいってしまったか。でもまあ、最高の気分で死ねるのはいいことだ」
申し訳なくなんとも思わないのは、もはや異常でしかない。
『サイコパスですこと……。ワタクシでさこんなことはしません……』
メアでさえドン引きされるほどだ。
しかし……このまま飲み続けると、邪石が強力になってイングルプが強くなるのは面倒だ。時と場合には暗殺を考えなければいけなくなった。
まだそのタイミングではなく、様子をする。
禁忌野郎……ほかにも置き土産するな……。




