676話 元デスナイトを説得
「そのことについてだが、ファントム――この村に残りたいか?」
「もちろんだ。私はここを気に入っている。友が迎えに来ても断るつもりだ」
「じゃあ、帝国軍が来ても1人で対処できるか? みんなを守ることができるか?」
「この力さえあれば、あの愚か者らを負かせることはできる」
「本当にできるか? アイツらはしつこく狙ってくるぞ。同じことの繰り返しが続く、みんなが耐えられるか?」
俺が言うとみんなは下を向いて不安になった。
「それは……、わからない……。すぐ諦めればなんとかなる……」
「いくら強くなったからって、アイツらはあらゆる手段を使ってくるぞ。はっきり言うが、ファントムだけでは厳しい」
「どうすればいい……。何か策でもあるのか……」
「そんなのはない。ただ、言えるのは安全場所――俺の領地に避難することだ。絶対保証はする。ここまで見せしまっては、放っておけない」
「大切な村を捨てるしかないのか……。みんな、ほかの者を待っているというのに……」
「友よ……いや、ファントム……。皆とここにいてはいけない……。自分の強さを過信してはならない……。それで失った者もおる……。主殿の領地なら安全だ。我が保証する」
セイクリッドは首を振って言う。あのときと同じにならないように。
「あの……こちらの方が領地をお持ちというのは……?」
「主殿は貴族であるぞ。それも子爵の地位まで持っている」
「き、貴族様ですか!? こ、これは大変失礼しました!」
全員に慌てて頭を下げるのだが……。
「頭を上げてくれ……。この大陸の貴族はどういう扱いなのかわからないが、普通に接してくれ……」
「子爵様はこの大陸に貴族様ではない……。プレシアス大陸お方ですか……?」
「そうだ。プレシアス大陸に行くことになる。悪いがすぐに決めてくれ」
ジェミアンカは黒髪の少女――ミュメーレを見た。
この子のためにも考えている。
「子爵様、お願いします……。私たちをあなた様の領地に住まわせてください……」
「わかった。お願いされたなら絶対に守る。ファントム、それでいいな?」
「みんながいいのあれば、口にはしない……。だが、連れて行かれたみんなは……」
「そのことで悪いが、帝王軍に連れて行かれたのは――」
「わかっています――もう二度と戻らないことはわかっています……。3年以上も経てば……みんな奴隷にされているのは……気づきますよ……」
ジェミアンカが涙を流して口を震えながら言うと――ほかのみんなも我慢できずに涙を流した。
帝国軍に連れて行かれるならそう考えるか。
実験台にされていることは……言わなくていい……。
言ってもつらいだけだ。
しかし、あの少佐は王子のお迎えをして、村人を奴隷にさせるようとする……。いったい、どういう神経をしている……。大陸を守る軍が、クズいことしているのはおかしい……。全員なのかわからないが、ムロナクに聞くしかない。
「そうか……。すぐに行けるが、持っていくものがあるなら準備してくれ」
「あの……麦を可能な限り持っていくのはダメでしょうか……? 不躾な申し出になりますが……畑があれば、お借りしてもよろしいでしょうか……? 麦は私たちを支えてきた大事な宝物です……。どうか……お願いします……」
「それはいいが、収穫したものを持っていくよな?」
「できれば、少し刈ったものも、持っていきたいです」
あの立派な麦を置いてくのはもったいないよな。
「わかった。今から手伝いを呼ぶ、少し待ってくれ――メア」
「フフフフフ……かしこまりました……少々お待ちを――」
メアは空間魔法を使い――領地に戻り、手伝いを呼びに行った。
「えっ? ええっ!? どいうことですか!?」
「まあ、そのうちわかる。荷物でも用意してくれ」
「麦を刈るのだったら、その前に、展望台で景色を見たい」
ファントムは展望台を気に入っているのか。
なら、夕日を沈む前に早く行かないとな。
「みんなが来るまで時間がかかるし、いいぞ」
「ありがとう。みんな、これで最後だ……見に行くか……」
ファントムがそう言うと、全員頷いた。
かなり思い入れがあるみたいだ。
俺も一緒に行って眺めてみるか――。




