671話 帝国軍の少佐
少佐と言われているイングルプの後をつける。
それに一緒にいる部下は邪石の付いた箱型の魔道具らしきものを持っている。
完全に企んでいる……。面倒なことが起こらなければいいが……。
村人たちはレンガの家から慌てて出てきたが……大人がいないぞ……?
若い女と子どもだけである。出稼ぎに行ったのか?
立派な麦畑があるのに、あれだけでは生計を立てられないのか?
「ようこそ……帝国軍様……私たちの村へ……」
10代後半くらいの長い水色の髪を三つ編みにした女性が、身体を震えるながら頭を下げる。
「イングルプ様だ! 何度も遠くから来てやっている少佐の名前を覚えられないのか!」
「た、大変申し訳ございません!」
イングルプは怒鳴ると、再び深く頭を下げた。
権力を振りかざしている最低な野郎だな……。
「まあいい、もう日が暮れちまって、もう泊まるところがない。だからこの貧相な村で泊まることにした。泊まるだけでもありがたいと思え、いいな?」
「は、はい……、ありがとうございます……」
『少佐の分際で偉そうですこと……。普通なら軽く首ごと切ってしまいますこと……』
少佐関係なく偉そうだけどな……。悪いが、ここは我慢してくれ……。
「それと酒だ! ここで造られている酒をよこせ! 疲れを癒やしてくれるのは酒しかねぇ!」
「申し訳ございません……お酒はもう……底をつきてしまいました……。製造してくれる方は、帝国様の手伝いに参加しておりまして……造れる方はいません……」
手伝いってまさか……邪石の実験か……? じゃあ、実験に行った者はもう……。
「ハハハッ! そうだよな! 税が払えないからほとんどの大人が帝王様のために手伝いに行ったのを忘れていた。造れねぇならしょうがねぇな!」
全部知っているくせして白々しい……。
「もう何もありません……。ご慈悲を……」
「何がご慈悲だ! 税をまだ払い終わってないところに慈悲もクソもあるか! 酒がないなら、疲れが取れね……。なら、お前たちが身体で疲れを取らせてもらう」
おかしいと思った――工房都市行かないのは身体目当てか……。
ムロナクを交渉させないのはその理由だ。
「そ、それだけはお許しを!」
「お前たちに権限なんてねぇ! なあに、一晩相手するだけだ」
「それだけは……お許しを……次回お会いしたときに酒を完成しますので……今回だけは見逃してください……」
「何が今回だけだ! 今回もだろうが! 俺様の機嫌を余計に悪くするな!」
さすがに限界か、身体に触れる前に闇魔法を使っておとなしくさせるか――。
「少佐様どうか、女神ソシア様のようなご慈悲を……」
「簡単に女神様を使うな――って……ハハハ……ハハハハハ! これはたまげた! まさか貧相なところにいるとはな!」
急に黒髪ロングの幼い少女がイングルプの前に出る。
その少女を見てイングルプは笑い、部下は動揺する。
おいおい……シャルさんが写真で自慢して見せてきた幼いソシアさんとそっくりだぞ……。
「ハハハハハ! いいだろう! 女神ソシア様に誓って許してやろう!」
「ありがとうございます!」
「もう……ミュメーレ、無茶しないで……」
「ごめんなさい……」
少女2人は涙を流して抱き合う。
それを見て村人たちはホッとひと息つく。これで終わりではないはず。
「だがなぁ、今回だけ許してもらっても税がまだ残っている。このままではお前たちは手伝っている奴は二度と帰ってこねぇぞ! 余計にこの村が貧相になるぞ。それでもいいのか?」
「税のことは重々承知しております……。お手伝いの行った方が戻ってくるまで我慢できます……」
「ハハハ、ならしょうがねぇな! だが、ある条件をのめば、税を消してもいい! 手伝いに行った奴を帰らせてやってもいいぞ!」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だ! 少佐の俺様が嘘はつかねぇ!」
「ではどういった条件を……?」
「そこにいる。娘を連れて行く。帝王様は第一王子――エレリット様の嫁を探している。それも、女神ソシアに似ている女をな! まだ幼いが、成長すれば悪くはねぇ。きっと帝王様とエレリット様に大変気に入られ、大喜びするだろう。村の税を必ず帳消しにし、すぐに手伝いをしている奴を絶対に村に返すぞ。そして俺様は昇進して待遇も良くなる。悪くない話だろ?」
だろうな、イングルプは私利私欲のために利用する……。
本当にクズ野郎だな……。
「ミュメーレはまだ幼いので、考えさせてください……」
「そうだな。じゃあ、一晩だけくれてやる。じっくり考えろ」
「短すぎます! せめて、また来られたときに――」
「わかりました……。行きます……行かせてください……」
ミュメーレは涙を流し答えた。
おいおい……いいのかよ……。
「ミュメーレ、ダメだよ! 考え直して!? 帝都に行ったらみんなに会えないよ!?」
「ジュミ姉……いいの……。みんながつらい顔を見るのは嫌だ……。私が行けばみんな助かる……」
「ダメ……ほかの道があるから……絶対にダメ……」
「大丈夫……私……絶対に幸せになるから……。ジュミ姉も幸せになって……」
「ミュメーレ……」
2人の少女は再び涙を流して抱きつく。
これは俺がどうすることもできない……。
今、解決できない話だ……。
帝王を倒さないかぎり解決できない。
悪い、それまで我慢してくれ……。
「決まったな。皆とお別れの挨拶は済ませろよ。明日にはここにはいないからな」
「わかりました……」
「それと、次来るときは酒は必ず用意しろよ。今回は見逃してやる」
「はい、皆様に提供します……。必ず約束は守ります……」
「そう……約束をな――約束を守れたらな――!」
イングルプが手を上げると――部下が邪石の付きの魔道具が周囲を輝きに包まれる。
そして、村人たちが急に倒れ始める。
「どうして……力が……」
「ギャハハハハ! 下の奴の約束をなんぞ誰が守る? バカなのか? お前たち奴隷の首輪を用意しろ! 黒髪の娘以外つけろ!」
「「「ハッ!」」」
最悪だ……これじゃあ、小人を苦しめた邪石と同じだ……。
最初から奴隷にするためにこの村を予定にいれていたのか……。
『主様、そろそろよろしいでしょうか……? 空間魔法の準備を……』
メアの言う通りここは、「ゲート」使ってを移動させるしかない。
もう止む得ない――。
『わかった許可――』
「――――ギャァァァ!?」
すると、展望台から魔力反応――魔力付与した矢が邪石の魔道具と持っていた部下が貫通して灰になって崩れ落ちる。
「な、何があった!?」
イングルプたちは大慌てでいる。
展望台からの反応が消えた。
一瞬だけだが、その魔力反応は覚えのある魔力だった。
そう――デスナイトの魔力反応が。




