670話 同じ魔物ではない
休憩をせずに日が暮れる時間になった。
そろそろ予定の村――オンオルに着くみたいだが、遠くに魔物――無数のゴブリンの魔力反応があった。しかもその奥には人の魔力も。ということは目的地の村ってことか。
ただのゴブリンならいいが、魔力が異質だ。魔力が多いだけならホブゴブリンだが、全然違う。
というか、ここはズイール大陸だ。普通のゴブリンと違うのは当たり前だ。
少し近づくと、ムロナクは気づいたようだ。
「おや、この魔力は人食いゴブリンがいますね」
人食いとかいるのかよこの大陸は……。
「おい、村が近くにあるぞ!? 襲われている可能性があるぞ!?」
「オンオルには魔物除けの魔道具が設置しております。ご安心を」
「そうか、なら安全確保のために人食いゴブリンを討伐だ」
「かしこまりました。では、先頭の者に伝えてきます――」
ムロナクは扉を開き、地面に降りると、馬車より速く前に走っていく。
只者ではないと思ったが、かなり速いな……。
数分経つと戻ってきた――。
「申し訳ございません。ゴブリンごときで止めることはないです。村に着くのが優先だとのことです」
「なぜだ!? 相手は人食いだぞ!? そのまま通れば私たちを追って村に迷惑がかかる!?」
「殿下と同じ意見を述べたのですが、鼻で笑って言うことを聞きませんでした」
「何をバカなことを!? 油断しすぎではないか!? これが誇り高き帝国軍か!?」
村に魔道具が設置しているなら相手するのが面倒なだけだろうな。
ゴブリンだから命令される筋合いはないってことか。
というか王子の命令を聞かないとは相当なめられている。
「フフフ……下等生物が下等生物をスルーですか……。ある意味誇り高き帝国軍ですこと……」
メアはバカにしてますね……。
とはいえ、魔道具があっても近くに来るのは安心はできない。
仕方がない、村に着いたらバレないように俺が討伐するか。
「「「ギャア、ギャア!」」」
馬車はゴブリンの群れになんの躊躇いもなく入り、強行突破する。
体系は変わらないが、目玉が飛び出て、よだれを垂らしながら鋭い牙をむき出しなのは、プレシアス大陸と全くもって違う……。異常種に疑われるほどに……。
「まあ……なんて醜いですこと……。久々にイジメがいにありそうな下等生物ですこと……」
メアの中のサディスト――血が騒いでいるようですね……。
手伝ってくれるなら別にいいけど。
それにしても――。
「「「――――ギャアァァァ!?」」」
ゴブリンが飛び込んで襲ってきてもお構いなしに轢いているな……。
するとゴブリンは急に止まった。
どうやら、魔道具の力で前に進めないようだ。
周囲は麦畑が広がり、村に入ったとわかった。ムロナクの言う通りここは内戦の影響は受けてない。
本当なら北にある魔道具の生産が盛んな工房都市――エワイエンで休むはずだったが、内戦の影響で復旧工事をしてゆっくり休むことができないと、帝国軍が苦情が飛び交い、これじゃあ王子がゆっくり休むことができないと言われ、影響がないオンオルに決めたらしい。
王子を盾にして言うとは……。ただ自分たちを優先しているのがバレバレだ……。
気になることが――奥にある丘――木で作られた展望台に違和感が……。
「なぁ、あそこにある展望台に何かあるのか?」
「展望台に魔物除けの魔道具を設置しております。よくわかりましたね」
なるほど、あそこに設置しているのか。
「2つも設置しているとか、かなり対策されているな」
「いえ、魔道具は1つしか設置してませんよ」
「ん? 2つあるぞ」
「おかしいですね……。この村なら1つだけで十分ですが……。誰かが余分に手配してくれたのか……」
まあ、余分にあったことに越したことはない。
ゴブリンに効き目抜群なのは良いことだ。
無数のレンガの家が建てられている場所に馬車は止まった。
ようやく休みことができる。まあ、何事もなければ一旦領地に戻って休むけどな。
その前にゴブリン退治しないといけない。
「では、私は村人に交渉をしてきます」
ムロラクは馬車を降りた。
さて俺たちもやるか――王子に言い、俺とメアは【隠密】を使い馬車を降りた。
軽く片づけて――。
「なんの真似だ? 私は交渉するのですよ。なぜ止める?」
ムロナクは数名の軍に立ちふさがれてしまう。
何が起きた?
すると、小太りでガタイのいい兜を外した紫髪の男が近寄ってきた。
ほかの奴より邪石の圧が強い。どうやら隊長みたいだ。
「俺様が交渉をする。役人のジジイは下がってろ」
なんかヤバい奴だな……。宿泊の交渉をならムロナクが適任だ……。
「イングルプ、毎回私がやっているのですよ? 何か不満でも?」
「決まっているだろ!? なんで下の奴らに頭を下げてまで言わないといけない! 村人連中に下に見られたらどうするんだよ!」
変なプライドを持っているな……。コイツ、頭大丈夫か……?
『あら……邪石を付けて頭がゴブリン以下の知能になってしまったみたいですこと……』
邪石は関係ないと思うが……。
「それが役人の努めです。あなたには――軍には関係ない話しです。通してください」
「ダメだ! お前はここでおとなしくしていろ! お前たち、しっかり見張ってくれ!」
「「「ハッ、少佐!」」」
ムロナクは止められたまま、イングルプという男は奥に行ってしまった。
なんか怪しいな……。ゴブリン討伐の前にアイツの様子を見るか。
『フフフフフ……面白いことになりましたこと……』
メアさん……遊びではありません……。




