665話 内通者①
どうも引っかかる。警戒はしたほうがよさそうだ。
「我輩たちの役目は終わった。すまないが、軍を引き下げてくれないか?」
「これはこれは、ククレット侯爵ではありませんか。殿下の送り迎え感謝いたします」
ムロナクは手を上げると、帝国軍は後ろに下がって距離を取った。
「ご協力感謝する」
「いえ、お互い様です。ここでの張り合うはよくないので」
「ふむ、それもそうだな」
当たり障りもない会話をしている。
帝国軍は離れているが、互いにバレないように接している感じに見える。
気は抜けないようだ。
「これは殿下にお世話になったお礼です。どうか受け取りください」
ムロナクは大きな木箱を侯爵に渡した。
「これは……?」
「些細なお気持ちと、帝都自慢の最新式の魔道具が入っています」
「そうか、ではありがたく受け取ろう」
見た感じ、怪しいものは入っていなさそうだ。
魔力反応もないし大丈夫だ。
多分、魔道具は入っていないと思う。もしかして、何かしらの情報が入っているのか?
「では、私は失礼する。皆よ、世話になったな」
王子はそう言いながら背を向けて馬車に向かう。
俺とメアは【隠密】を使い、王子の近くに向かった。
帝国軍の奴らに近づいたが、気づいてはいない。
だが……異様に物静かなのは、不気味である。兜をかぶって顔は見えなく感情がわからない。まさか操られているわけではないよな?
「殿下、お入りください」
「ああ、すまない――」
王子が馬車の中に入ろうとすると――手招きする素振りをした。
ん? 俺たちも中に入るのか? さすがにそれはマズいぞ……。
いくらムロナクが信用できるからと、中に入るのは危ない。
「お前たち、出発する前に不備がないか確認をしてくれ。殿下が怪我をしてまえばタダで済ませられない」
「「「ハッ!」」」
ムロナクの指示で帝王軍は馬車の周りを確認した。
そしてムロナクも小さめに手招きをした。
おいおい……。
あれだけ、王子がわかりやすくサインを出せば、ムロナクにも気づいてしまう……。
『フフフフフ……歓迎してくれるとは紳士ですこと……。では遠慮なく――』
メアは躊躇わず馬車の中に入ってしまう。
気づかれては仕方がない……俺も入るか――。
「「「異常ありません!」」」
「そうか、では帝都に行くぞ――」
窓で確認すると、帝王軍たちは各馬車に乗り、帝都を目指して進む――。
それまで、俺たちは無言を貫いている。
「もう隠れなくてもいいぞ」
「殿下少々お待ちを――」
ムロナクがポケットの中から取り出したのは、小さな魔石付きのキューブ――魔道具である。
魔力を流し始めると――結界のような壁が広がった。
「――これであなたたちのがいることがわかりません。ご心配なく、声も聞こえません」
なるほど、周りに気配と音を遮断する魔道具ってことか。
ここまでされると、姿を現さないといけなくなった。
俺たちは【隠密】を解除した。
「まさか若い2人とは意外でした」
「ムロナクよ、この2人を甘く見るのではない。若くても王都で魔法学校で教師をしていた方だ」
「なんと、この若さで……。大変失礼しました。殿下がお世話になっております」
「挨拶はいいとして、俺たちは――」
「わかっております。上の方から帝王の暗殺するように言われておりますね。ですが残念なことに、帝王を暗殺することができません」
「いや、俺たちは辺境伯とグランドマスターを助けに行くだけだぞ……」
「なるほど、救出の方ですか。またとんだ失礼を」
【隠密】があれば、帝王を簡単に暗殺できますけどね……。
俺たちをそう思っても仕方ないか。
「フフフフフ……暗殺ですか……。救出ついでに暗殺もいいかもしれません……」
メア……ついでなんてできないぞ……。話に乗るのではありません。
というか帝王を暗殺してもグリュムを倒さないと俺たちは意味がないぞ……。
「確かに2人なら余裕かもしれない。けど、なぜ暗殺できない?」
「それは――上に立っている者が帝王ではないからです」




