660話 お互い悔しい
相変わらず厳つい建物だ……。天辺にドラゴンの頭骨って……あれは――。
「前のときは気づかなかったですが、スノードラゴンの頭骨ですか?」
「そういえば言ってなかったな。確かにスノードラゴンの頭骨だ。ヤーワレはズイールで活躍していたときに討伐したぞ。子どもを守るために死闘とか言っていたな。今思うと、倒したのが奇跡だ」
厄災級を倒すとかすごいですね……。やはり子どもを守るのに必死だったかもしれない。
いや、リミッターを解除できたのかもしれない。
さすがギルドマスターをやっているだけではある。
いつも疑ってすみません。
てっきり、ここ周辺はスノードラゴンが住みやすい環境だから、現れて討伐したと思った。
全然違うみたいですね。
というかヤーワレさんにシルセスを会わせるわけにはいかないな……。
シルセスもこの頭骨を見させたらマズいと思う……。
けど、ファルファたちを招待するなら言わないといけない。
確認はしたいのは本音だが、一旦保留にしよう。
「――――ウオォォォォ!」
外のからでも聞こえるヤーワレさんの泣き叫ぶ声が……。
中に入ると――ヤーワレさんはバーカウンターで酒を飲みながら泣いていました……。
「全く……騒がしいやつだ……。おい、ヤーワレ来たぞ」
「グランドマスター! なぜなんだ! なぜアイツらが犠牲にならないといけないんだよおぉぉぉ――――!」
戦争で亡くなった者のことを言っているようだ。
本人も相当悔しいだろうな……。
「落ち着けって! お前の気持ちはよくわかる! 業務中に酒は――」
「そんなことわかっている! けどな……この怒りをどこにぶつければいい!? 飲まなければやってられねぇ!」
周りの人は止めないということは、諦めていますね……。
ヴェンゲルさんはため息をついた。
「俺はお前と同じで悔しくてたまらない。だがな、1番悔しいのは戦ったやつだ。お前が悔やんでいる暇があるなら、優しく声をかけろ。俺たちができるのはこれくらいだ」
「グランドマスター……、そうだよな……。俺がアイツらより悲しんいてどうするんだ……。すまなかった……」
「わかればいい」
「だが、俺は辺境伯とデムズグランドマスターを殴りたい……。この責任はお前たちにあると……」
「ああ、生きてたらな。お前が気が済むまでやればいい」
ヤーワレさんは酒を一気に飲んで、頬を思いっきり叩いて立ち上がった。
「お前たち、何ボーっと突っ立っている! 暇があるなら英雄たちを励ましに行け! いいな?」
「「「へい、アニキ!」」」
「全く……世話のかかるギルドマスターだな……」
ヴェンゲルさんは呆れながら言うが、内心は安心しているかもしれない。
「「「グランドマスター! ありがとうごぜいました!」」」
ジェリックたちが頭を下げてお礼を言う。
聖国騎士がいるからジェリックたち――警備や開拓を手伝ったみんなを解散させたが、戻ってもかなり大変ですな。
そういえば、頻繁にジェリックがヴェンゲルさんに連絡しているのは、このことか。
手に負えないから助けを求めたのかもしれない。
待てよ――。
「もしかして、俺を巻き込もうとしましたね」
「さぁ、なんのことかな。とりあえずヤーワレが元気になってよかったぜ」
絶対に巻き込もうとしていたな……。
どうせ無理な場合、俺になんとかせようと思っただろうな。
本当に困ります。
でもまあ、ヤーワレさんが気合が入っていないと、周りは不安だしな。
「では、俺は孤児院に――」
「俺も行こう! 最近子どもたちの様子を見に行ってなかった! 子どもたちを心配させてはいけないしな!」
いや、毎回会っているなら心配しないだろ……。
というか、酒臭いから嫌われるぞ……。
結局――ギルドはヴェンゲルさんに任せて、ヤーワレさんと一緒に孤児院に行く。




