659話 脱出した者の様子
移動し、侯爵の屋敷を訪ねると――。
「久しぶりだなレイ、もう大丈夫なのか?」
騎士に客間に案内されると、侯爵のご家族とソウタと精霊たちが待っていた。
ソウタはアスタリカに派遣されたと聞いたが、まさか因縁の相手の家族の屋敷にいるのは、なぜか複雑だ。
仕事だから仕方ないことだ。
「大丈夫だ。悪いな、心配させてしまって、ところでソウタたちは、侯爵の屋敷に?」
「遠征中ここで泊めさせてもらっているよ。ありがたいことに、部屋まで用意してくれて自由に使わせてもらっているよ」
前のことを気にすることなく話していますね……。
部屋って客室用の部屋か? まさか……ド変態の部屋を借りているわけではないよな?
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。ちょっと、考えごとをしただけだ」
精霊たちも気にしてないようだし、別にいいか。
「で、シュニット、脱出したやつはどこにいる? アイツらにいろいろと聞きたい」
「我輩が手配した宿でゆっくりさせている。だが、心身ともにやられて聞くのはやめたほうがいい。我輩たちが無理に聞いたら、ほとんどが発狂して怯えていた」
無理もないか、シンガードの無惨な跡を見ればわかる……。
目の前で仲間がやられたのは、かなりキツいものだ……。
あれで普通でいられる者なんて異常だ。
「そうか……。じゃあ、聞けた情報だけでいい。何か知っているか?」
「それは俺が話すよ――」
ソウタの聞いた話によると――厳重だった防壁を魔法で破壊されて軽々突破されたとのこと。
そして、現れたのは少人数の勇者らしき――成人してまだ浅い者だという。
そいつらを目にした仲間が急におかしくなり、同士討ちをし始めたという。混乱しているなか、正常にいられる者は、1人の勇者にデタラメな剣術でやられ、しまいには、上位の魔物が乱入してカオスな状態になったという。
もう戦っても無理だと判断して辺境伯とデムズさんは囮になって、生き残った者は無事に逃げられたという。
かなり有益な情報じゃないか。十分すぎるほどの情報だ。つらいのによく話してくれた。
これはアンバーに情報提供しないと。
しかし、まだ疑問がある――。
「その勇者らしき奴はは邪石を付けていたのか?」
「聞いたが、わからないみたいだ。まあ、混乱して確認なんてできないぞ」
「それもそうか」
「いや、あの禍々しい石を付けていたら嫌というほどわかるぞ。アイツらは数々の戦場を駆けた猛者ばっかりだ。わからないことはないだろ」
確かにヴェンゲルさんの言う通りだ。邪石は【魔力反応】普通に引っかかる。
近ければ嫌ほどわかる。
「それに、少人数? 後ろに帝王軍はいたよな?」
「いや、少人数しか聞いていない」
「はぁ? 異世界から召喚された勇者が少人数でシンガードに行けるわけがない。あそこは、険しい道が多く、土地勘のある奴しか行けない場所だぞ。本当に勇者なのか? 若造なのもどうもキナ臭い……」
「そう言われても、聞いた者の大半はそう言っていたぞ」
ヴェンゲルさんの推測は正しい――俺もそう思った。
防壁が破壊されて邪魔になっても周りは見渡せられる。帝国軍がいるならわかる。
異世界から来た勇者だけなら、あり得ないことだ。
本当に勇者なのか疑う。
後ろにグリュムがいるのはわかっているが、いろいろとおかしい。
「まあいい、まだ情報が足りん。しっかり話せるようになったら俺が聞く。レイ、俺は当分ここに残る。みんなに伝えといてくれ」
「わかりました」
それ以上は聞けない状態だから仕方ない。
俺がここにいても意味がないし、戻るか。
「グランドマスターが残るのか……」
「俺が残って文句でもあるのか?」
「いいえ、ありません!」
ソウタとしては監視されているようで怖いようですな。
というかもうトラウマですね。
「そんじゃあ、ヤーワレにも挨拶しないとな。レイもアスタリカに来たのだからヤーワレにも挨拶してから戻ってくれ」
さすがに挨拶くらいはしないとな。
そうだ、孤児院に――ファルファたちにも挨拶しよう。
まだ領地に招待できないことを言わなければいけない。
俺とヴェンゲルさんは屋敷をあとにして、ギルドに向かう――。




